「いろんな意味でグレーゾーンを突き進む音楽劇」クルエラ 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
いろんな意味でグレーゾーンを突き進む音楽劇
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1960~70年代のロンドンを舞台に、『101匹わんちゃん』のクルエラの前半生を描く。まあディズニーの一連の企画モノのひとつなのだが、監督が『アイ、トーニャ』のクレイグ・ガレスピーということもあって、音楽に音楽をつなぐことでクルエラの生き様を浮かび上がらせる語り口が実にエキサイティング。『グッドフェローズ』調という人もいるが、ガレスピーが手掛けると、本来なら共感しづらい人物へのシンパシーが通底にあって、作品の温かみにつながっている。
そしてエマ・ストーン演じるクルエラが、とにかく痛快なのがいい。不幸な生い立ちの少女は、もちろん悪の道に足を踏み入れて行く。それを「こんな理由があったからしょうがないんです」と言い訳するような面は確かにあるのだが、クルエラ自身が善を目指しているわけでもないので、そこはほどよくピカレスクロマンであり、倫理観より自分の欲に忠実な姿には爽快さが漂う。
正直、散漫になったり、もっと掘り下げてほしかったりする箇所はある。そもそも問題になって当然の「犬の皮を剥いでコートにする」という設定をどう扱ったかについては、ヌルいという意見もあるとは思う。しかし、本作のクルエラはそんなことは承知の上で悪を演じていると名言しているわけで、もはや『101匹』とは別の新クルエラの誕生を祝いたいです。
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