劇場公開日 2021年6月5日

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「押し潰されていく抗う民の声」デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0押し潰されていく抗う民の声

2022年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今から何年か前。返還前の香港には何度も何度も遊びに行きました。さまざまな顔を持った街の風景やバイタリティ豊かな現地の人々。西洋と東洋の融合を感じる・・・どこの国でもない「香港」が大好きでした。返還式典を現地で見てから何年経ったのだろうか?あの時は予想もしなかったまさかの現実に諦めにも似たため息がとめどなく出てきます。

本作を見るまでデニス・ホーさんを知りませんでしたが、本人の人生や生き様自体が香港そのものなのではなかろうか?と思いました。どんどん失っていく歌声、言葉、住む場所、思想、思考・・・自由。香港が別の土地になっていくように、彼女たちは塗り替えることを強いられていきます。色を失っていくということはこのことか。

デニス・ホー自身がポップスターで活動家で性的マイノリティ・・・など稀なパーソナリティであるところが、類を見ない国、香港と重なります。重ねて描いている点が秀逸であり、彼女の希望、悩み、失望などなどが香港のそれに見えます。そして、長期的・大局的視点で希望を捨てない姿に香港もそうあってほしいなとも思いますが・・・ショッキングなデモの映像がショッキングすぎますし、圧政にしか見えない国家権力の横暴さに無力感しかないです。

200万人(香港の人口750万人)を動員しているデモなのに、民意を無視するし約束を反故にするって・・・・。民意ってなんなんだろう?国家ってなんなんだろう?民あっての国なんて・・・嘘っぱちだと思ってしまいます。この映像を鵜呑みにすれば(妙な操作が施されている映像ではないと思いますが)アジアの某大国の所業に眉を細めざるを得ません。某国には都合があるのでしょうが民を蔑ろにするその様は侵略にしか見えません。

本作は中国、香港で上映禁止だそうで・・・。そりゃぁそうでしょう。日本の配給会社はリスクはあるが上映に踏み切ったとのことでした。本作を観れたことは知れたことはよかったです。国家の横暴は日本人もいつかは味わうような気がしてなりません。そうならないように何をするべきか、考えることに無駄はないと思います。

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本レビューは昨年の記載忘れです。
2021年末、デニス・ホーさんの逮捕の報道、香港の一方的な選挙の報道などで、より無力感を覚えました。世界はどうなっちゃうんだろう・・・・
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バリカタ