「だって「大好きってしか言えねー」もん」サマーフィルムにのって つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
だって「大好きってしか言えねー」もん
思い出してほしい。映画が始まって一番最初に出るタイトルを。それは「大好きってしか言えねーじゃん(仮)」だ。
つまり「サマーフィルムにのって」のメインテーマは「大好き!」なのである。「大好き!」が木の幹とするなら、時代劇とか、タイムトラベルとか、夏休みの映画作りとかってのは全て枝葉や花。
もっとちゃんと説明するなら、ハダシの大好きが時代劇で、ビート板の大好きがSF、ブルーハワイの大好きがキラキラ青春ラブコメ。この3人の「大好き!」が絶妙に絡まりあった映画が「サマーフィルムにのって」なのである。
この3人以外のキャラも素晴らしい。特に映画部で「大好きってしか言えねーじゃん」を撮っている花鈴は、嫌なヤツかと思いきや、しっかり自分の美学を持っている立派な映画監督だ。
映画の中で、花鈴はハダシを監督として導いているフシがある。もちろん花鈴に「ハダシを立派な監督にするわ!」みたいな野望はないのだが、映画を愛し映画を創る姿勢を通じて、好きを形にする楽しさと覚悟を示しているような気がするのだ。
コミュニーケーションの肝は受け手にあると言う。
「サマーフィルムにのって」が巧妙なのは、相手のセリフがどんな意味に聞こえるか?を大切にしているところだ。
例えばロケ合宿のお風呂場で、ビート板が花鈴に「負けないから」と言った後。花鈴は「ごめん、全然眼中になかった」と返すのだが、ここのセリフがすごくサラッとしているのだ。
このセリフをどう言うか、コメンタリーによると花鈴役の甲田まひるは相当悩んだらしい。
この時、花鈴にとってハダシが映画で自分と勝負しているとは初耳だが「勝負しているとは知らなかった」以上に、「自分の映画製作に夢中で何も気づいていなかった」という意味の「眼中になかった」なのだ。
あまり余計な感情を入れないよう、あくまでも天真爛漫なのがこのセリフの肝である。
それでもビート板には挑発に聞こえているし、ブルーハワイは無視されているように聞こえたらしく寂しげな表情をしていた。
もう1つ例を挙げるなら、「サマーフィルムにのって」の最重要シーン、ハダシと花鈴の編集作業である。このシーンの前に、文化祭の前日ギリギリまで編集している間、数々の青春ドラマがガヤ的に繰り広げられていて、そこだけ切り取っても面白いのだが、花鈴が息抜きにDVDを観始めてからが真骨頂である。
アンチラブロマンスなのかと思いきや、いつの間にか一緒に泣きながら恋愛映画を観ているハダシも面白いが、同じく泣いていた花鈴は「やっぱ、伝えない愛も良いよね」と言う。
「伝えない方が良いのかな」というハダシは、明らかに凛太郎への自分の思いを考えているが、そんなことは露ぞ知らぬ花鈴は、「私の作品では絶対に伝えるけどね」と映画の信念を語る。
「え、駄作になっても?」というハダシの問いへの答えが清々しい。「勝負しない主人公は好きじゃない」。花鈴自身、自分が好きだと思うジャンルの映画を撮り、これが好きだと勝負してきているから、自分が反映された自分の映画では主人公に勝負させたい。それが自分だから。
その後、ハダシの映画上映どうするの?という話の流れで、花鈴はハダシに発破をかける。「勝負、しようよ」と。
これも花鈴にとって他意はない。花鈴が口にしているのはあくまで映画の勝負。だが、ハダシにとっては花鈴の「勝負しようよ」は「ちゃんと気持ちを伝えなよ」に聞こえるのだ。勝負しない主人公になっちゃっても良いの?と聞こえるのだ。
「武士の青春」のラスト、仇討ちという真剣勝負の場で、ハダシは悩んだ末に主人公と仇敵が斬りあわないエンディングに決めていた。別れを運命づけられたからって「さよなら」なんて言わなくて良い、という思いを込めて。そこに自分と凛太郎を重ね合わせていたからだ。
しかし、花鈴の「勝負しようよ」で気づくのだ。斬りあいは相手を特別に思ってこそだと。特別なのに斬らない、自分の思いを伝えない、そうやってみっともなく足掻いて、それでも別れが来るなら。
別れの前に、せめて「勝負」しなきゃならない、そもそも「決闘しない時代劇なんて絶対認めない」んじゃなかったのか、私はそういう奴じゃなかったのかと。
この映画のラストの殺陣は、映画史に残る名エンディングだと思う。あんなにバカバカしくて、カッコいいエンディングはいまだかつて観たことがない。
時代劇撮ってるのかと思ったら、キラキラ青春ラブロマンス映画で、なんかズルい。ブルーハワイの言う通りだ。
だから実は、この「サマーフィルムにのって」は多分月島花鈴監督の映画だ。キラキラ青春に世界観をグッと深める為の時代劇要素とSF要素。そして最後は主人公にちゃんと勝負させる、「大好き!」が詰まった映画。
泣きながら「傑作!傑作!」と拍手しちゃう、そんな映画だと思う。