「カンボジア系フランス人の監督が描く、クメール・ルージュ政権下のとある家族の物語」FUNAN フナン Nardisさんの映画レビュー(感想・評価)
カンボジア系フランス人の監督が描く、クメール・ルージュ政権下のとある家族の物語
この映画の存在を知って、まず疑問に思ったことがある。
カンボジア近代史でもかなりセンシティブな問題であろうクメール・ルージュが、なぜフランス語のアニメーションで描かれたのかという点だ。
歴史に少し詳しい人であれば、カンボジアはかつてフランス領インドシナとして植民地支配を受けていたことをご存知だろう。こうした過去の経緯や私と同様の疑問を持った方の視聴レビューを見ていたので、観賞前はちょっと身構えた。
けれどもいざ観てみると、まるで『火垂るの墓』や『この世界の片隅に』のように、アニメーションでしか表現できない「人間のリアル」が見事に描かれた佳作だった。
まず、冒頭で触れた「なぜフランス語アニメーションでクメール・ルージュを描くのか?」という点については、監督のルーツが理由になる。
監督のドゥニ・ドーはカンボジア系フランス人で、映画は彼の母や兄の実際の体験を基づいているそうだ。今回の作品が「家族への敬意を示すと同時に、歴史の証言にもなっている」と日本向けのインタビューで語っている。
例としては微妙だが、ニュアンスで言えば、ユダヤ系のスピルバーグ監督が英語で『シンドラーのリスト』をつくるのと同じような感覚なのだろう。
そして、作劇の間や演出から時折感じる日本のリミデッドアニメーションっぽさについては、監督自身が「日本のアニメを見て育った」と語っている点から納得がいった。
歴史上の人物ではなく、家族や市井の人をクローズアップして戦争を描く手法についても、どこか日本映画やアニメの影響があるように感じた。
クメール・ルージュが支配した激動の4年間を、1つの家族にフォーカスして描いた本作は、公開時期こそクリスマス時期でマーケティング的に謎だなと感じるところはあるものの、それを補って余りある良い作品だと思う。
「人間の尊厳とは何か?」を問いかける重い作品なので万人には進めづらいが、直接的な残酷描写がないので、PG指定もないため子供でも視聴が可能だ。
公開期間が短く、人も選びそうな作品だけど、是非とも多くの人に映画館で観て欲しい...
そんなふうに、帰宅してすぐにレビューを書きたくなってしまうような作品だった。