「20-10じゃなくて、20+10じゃないの?」きまじめ楽隊のぼんやり戦争 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
20-10じゃなくて、20+10じゃないの?
緩い棒読み台詞に耐えられるかが評価の分かれ目であろうけど、津平町の人々の言動や町長のうさん臭さ、それにほとんどのエピソードが見えぬ戦争の皮肉と批判を表し、シュールで完成度の高い作品になったと思う。
かなりボロボロの家屋といい、貧しくもつつましい生活や勤勉さが太平洋戦争時の日本人をよく表現できているとも感じる。棒読みや感情のない会話なんてのも風刺が効いているし、生まれる前から起こっている戦争に何の疑問点も出てこない。そして、町長の女性蔑視発言や全体主義的命令。受付嬢のやる気のなさには笑わせてもらったけど、これも公務員への風刺なのかもしれない。
ストーリーそのものも面白いし、右腕を負傷した藤間の不条理な扱いや対岸のトランペット吹きの女性のロマンティックな構図、何もかもが愛おしくなる人間関係ややりきれない面とのアンバランスさの積み重ねがとてもいい。そして、根本的問題として戦争の理由や敵である隣町の存在を誰も知らないこと・・・今の日本においても、いつしか感情さえも奪われてしまう怖さがある。
最も気になったのが、煮物泥棒から始まり刑罰の代わりに入隊させられた三戸(中島広稀)の存在。主人公の露木と仲良くなるが、彼の台詞はすべて疑問文という面白さ。戦争に疑問を持たない町民ばかりだが、彼だけは疑問に思っていたともとれる。隣町は怖い、恐ろしい武器っを持っているとか・・・興味本位で確かめたくなった三戸は単独川を泳いで隣町に潜入するのだ。その後の彼の台詞からは疑問符が取れるという面白味があるのです。
やっぱり音楽は世界共通のもの。「美しく青きドナウ」の旋律と阿修羅のごとくで使われた行進曲が対照的で面白い。楽隊の“盲腸”から“顔”なんて笑わせてくれるけど、「産めよ増やせよ」という国の方針がイメージまで変えるのか・・・理不尽(橋本マナミもよく耐えた)。また、評価を満点としてしまいましたが、ウザキャラの竹中直人が喋らずにチョイ役だったことも好印象だった。
今晩は
”「美しく青きドナウ」の旋律と阿修羅のごとくで使われた行進曲が対照的で面白い。”
小学生時代、両親が”阿修羅のごとく”を見ていて、子供ながらに”剣の舞”が流れる中、夫の浮気に感づきながら裁縫仕事をしている妻の姿が、怖かった事を朧気に覚えています・・。もしかしたら、母が父に対して敢えて見せていた気もして・・。”剣の舞”のメロディを聞くとそういう意味でも、怖さが蘇ります。
今作は、実験的な要素もやや含ませながらも、反戦の想いを込めたシニカルな笑いを絡めた面白き映画でした・・。