この世界に残されてのレビュー・感想・評価
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静かで優しい鎮魂歌と再生の哀しみ
ホロコーストでそれぞれの家族を失った中年医師と少女の奇妙な共同生活が、やがて互いを思いやり、やがてそれぞれの道を歩み始めるまでの数年間を、大げさな演出なしに細やかな感情の動きを静かに綴った大人向きの映画。二人がお互いを思いながら道を外れない生活に死者への敬意も感じられる。ヒトラー支配の後に共産主義に移っていく国家体制の影も、大事な話は盗聴されないように話すことなど生活のディテールで間接的に示される。過去の悲しみを越えた先にもまた哀しみがあることも語っているところが共感できる。
極限の世界を経験したからこそ
人と人ただいるだけで良い、という関係が二人の関係だ。
この二人には、周りの人が状況がリアルじゃないように写っている。特に最初の方。彼女は父と母のことを過去形で話すことを拒否する。まだ帰ってこないだけ…と。妹が目の前で死んでいったことより大事なことがないと、思っている。誰にも彼女のきずは見えない。
彼は喪失の大きさに圧倒され、意味なく毎日生き残ることを強いられているよう。
最後はほんの少し、明るく終わりほっとした。
・・にもかかわらず、人は生きることができる。
大切に思うからこその距離感
ひとの感情の移ろいやすさ
そして正しさとはなんなんだろうね
おそらくふたりの関係は尊敬にも似たような感情もあったのだろう
意外な思考能力を見せたことにより「数学の成績は?」と尋ねるアルド
そして周りのひとたちと違ったものをアルドに見出すクララ
娼婦ではない
倫理観はある
クララから感じるのはアルドに対する信頼
父性を見ているがそれ以上の感情があるのかは判らない
外部からの様々な視線や社会的な規律からくる抑圧などもあるが、アルドから感じるのは自分自身への正しさに対する問いかけ
最後の「嘘はずっとついている」、がこころに残る
誰しも生きていくうえで様々な仮面を被っているよね
ここにいない大切な人たちへ
毒舌を吐く16歳の少女の、傷ついた心にいち早く気付き、自身の傷と重ね合わせていく産婦人科医のアルド。
この映画を、年の離れた男女の恋ととらえることもできるだろうが、そんなに単純ではない。
なぜ、自分を追い求めるのか。
少女クララの心が解けていくに従い、アルドはクララに対してリスペクトすら感じるのだ。
守っているつもりの大人が、実は子どもに助けられている。
クララが変化するにつれ、周りの大人も変わっていく。
クララは感情を失くしたアルドの心に気づいていたから。
ほかの大人とは違う、何かを感じたに違いない。
ホロコーストを生き抜き、戦後になってもその傷が癒えない人たちが、新たに家族を作っていくストーリー。
もう一つの側面、アルドとクララの気持ちの揺れ。最後に大人の決断をしたアルドの心の強さが素晴らしい。
父の面影を重ねて、恋と勘違いをする年齢の少女を、心の友として大切に扱うことの難しさ。
心の機微が、アルドの視線、クララの言葉で切ないくらいに表れていて、秀作ですね。
年明け一番が、この映画でよかった。
寄り添い、慰め合い、明日へ。
戦争や虐殺などの悲しい出来事の生き残ってる方々のお話。
スターリンの圧政が続く中、生きた心地もしない上に、大事な家族を
奪われているという事実を抱えて生きていかねばならない。
経験はもちろんないですが、心を平穏にするためにはどれだけの苦労が
あったのか?と思います。
アルド然りですが、なんらかの経験を経て、平静(を装っている?)な日々を
過ごせるようになったのでしょう。
そして、里親の描写も出てきます。さらに子供を守るために自らの大切な物を
奪ったであろう「党側」に入るという選択をするという描写も。
当時の方々は毎日毎日心が千切れるような思いをしていたんだろうなぁと想像します。
その中、主人公2人アルドとクララが出会うわけです。
子供の成長には親は必要なんだなぁ、血の繋がり云々ではなく。。。と痛感。
アルドと時間をともにしていく中、クララに人間味・・・年相応の多感な女の子になっていく様
その彼女を心配だけど包み込むような眼差しで見守るアルド。
癒し、癒されお互いが失った時間を取り戻していくかのような描写を優しく優しく描いていきます。
どんどん、自分じゃない誰かを想う、案ずる、愛おしむ・・・そんな人間味を取り戻していく描写が
心にじぃぃぃんときます。
そして、あぁ、そうなるよな。致し方ないよな。
きっかけがあれば、そーなっちゃうよな。
この展開はみる人によって感想は変わると思います。
しかし僕はこれでよかったと思ってます。
外力でどーのこーのではなく、当人同士の判断でこうなったことががよかったと。
ラストは、3年後が描かれます。
皆幸せそう。よかったよかった。・・・・しかし。アルドの視線はなぜか寂しそうなんだよな。
心配とは違う、自身の選択を後悔しているかのような、未練のような。
そしてクララに「僕は嘘をつく」と言う。
なぜ?言ったのか?彼なりの知っておいてほしいと言う気持ちの表れか?
もしくは自分の気持ちに今更気づいたか????
クララの世代はスターリン後の新世代を生きる。
後悔、未練のように見えるスターリン時代のアルドの眼差しに対し
ラストのクララの眼差し、は未来を見る世代の象徴なのかもしれない。
忘れてはいけないのはクララの笑顔もこの眼差しも、アルドとの生活の上にあるもの。
あぁ・・・辛い涙。
もう独りにはなりたくない
第二次世界大戦後のハンガリーにて、ホロコーストを生き残った16歳の少女と、40歳過ぎの婦人科医の二人が、それぞれに傷を抱え寄り添う物語。
上映時間は80分強。状況説明等あまり多くは語られず、心に影がある二人の交流が初っ端から描かれていく。
あなたは噓つきか嘘つきでないかといった公務員試験問題みたいなやり取りの後、抱える孤独感を素直に表すクララ。言葉数は少なく、感情が読み取りにくいアルドだが、クララを終始優しく包み込んでいる。
亡くなった父親の姿をアルドに重ねるクララ。
パーティーからの帰りが遅くなるクララを心配するアルドはだんだんと本当の父親のように。
しかし、二人を襲うピンチに、ソファーに戻したのはやはり何かを察したからなのか。
後半、クララの流した涙は、また独りになると思ったからか。或いは…!?
最後のアルドとクララの会話…最初と同じやり取りにこちらも心が揺さぶられる。
その他、「そこらじゅうにいるから」のワードが印象に残った。
この2人の関係は勿論、孤児院に通い里親を見つける手伝いをするアルドにとっては、確かにそうなのかもしれませんね。
それと、どうでも良いけど「校長先生はデブじゃない」には少し笑ってしまった。デブって・・・
アルドのセリフなんだからもうちょい訳しようがあったでしょう。
比較的短い上映時間の中で、孤独や人を想う大切さや難しさ、社会主義に対する苦悩が良く描かれていた作品だった。
もう過去を振り返ることはない
ときどき頓珍漢な邦題をつける配給会社だが、本作品の「この世界に残されて」という邦題は秀逸だと思う。まさに戦争のあとに残された者たちの悲哀を描いた作品である。第二次大戦後の1948年からスターリンが死んだ1953年までのハンガリーの首都ブダペストが舞台となっている。
ホロコーストによって家族を失った16歳の少女クララと42歳の医師アルドが出逢い、寂しさのあまり同じ心の傷を持つアルドのところを訪れてきたクララに対し、父親代わりのような日々を送る。家族がいない境涯をなかなか受け入れられず、世の中に対して斜に構えているクララだが、アルド医師は決してそのことを否定したり説教したりしない。クララがみずから自立の道を歩み始めるのを待っているのだ。
ナチスドイツが去って平穏な日々が訪れたと思ったら今度はソ連だ。一元論の価値観を押し付けて人格を蹂躙するのはナチスと同じである。自分を持たない人は共産党に入党し、スターリニズムという全体主義を錦の御旗にして、共産党員でない人々を睨めつける。自分が虎の威を借る狐であることに気づかない。何度か登場する居丈高な女教師がその典型だ。アルドもクララもそんな連中を相手にしない。
しかしスターリンの弾圧はハンガリーにまで及んでくる。常に覚悟を決めているアルドは、いつ何時であっても即座に逃げ出す準備を怠らない。緊張感の続く日常に厭世的になってもおかしくない筈だが、クララもアルドも正気を保ち続ける。このアルド医師の落ち着いた精神性が物語を安定させている。クララは素晴らしい人に出逢ったのだ。
そして3年が過ぎて、クララは21歳になった。もう落ち着いた大人である。ラストシーンの森の中を走るバスの中では、窓に溢れる光がクララの表情を美しく照らし出す。その光の温かさは、今を生きていこうとするクララの心を優しくあたためているようだ。もう過去を振り返ることはない。
【ハンガリー動乱前の話】
第二次世界大戦が終了し、ほんの短い間の平穏な日々だったのだろう。
ホロコーストで家族を失った悲しみを、お互いに埋め合わせようとするクララとアルド。
共産党の支配が強まって、別な監視が強まっても、信教を理由に弾圧を受け、虐殺を受けるという状況ではなかった。
そんな多くの制限があるなかでも、クララとアルドの心の揺れが大切に描かれているし、僅かずつだがクララが成長していく様もよく見つめられていると思う。
スターリンが死に、ハンガリーでは自由化を求める活動が活発化する。
クララのボーイフレンドの喜びと裏腹に、アルドは不安を隠さない。
再び、ハンガリーはハンガリー動乱と呼ばれる混乱の時代に突入し、ソ連が自由化デモを弾圧する事態となり、本当の自由化は、社会主義崩壊まで待たなくてはならない。
ブダペストは、本当にきれいな街だ。
こんなところで、多くのあなたが奪われたとは思えないほど、素敵な街だ。
是非、訪れてみてください。
嘘つきアルド
1948年、ソ連の衛星国時代のハンガリーで、ホロコーストにより両親を失った16歳の少女クララが、42歳の婦人科医アルドと疑似父娘になっていく話。
1度診療を受けただけだし、特にこれといった出来事もないのに、急に懐く描写に不安になる始まりw
両親が収容所に連れて行かれたことがどういうことかは判っているけれど、その先は受け入れられないクララ。
一見冷たく独りで生きる覚悟をしている様にみえるアルドも、独りを恐れるクララを受け入れて関係が始まって行く。
共産党の色が濃くなって行く世情の中で、成長して行くクララと、彼女の交友関係に心配するアルドはまるで本当の父娘の様で、自分から追っかけたのに疎ましく思っているかの様なクララの振る舞いとか、何とも微笑ましい。
どこかで、離れ離れになることを恐れつつも、それでも信頼し合う姿はとても温かく、優しく良い話だった。
作品の空気感
クララが少女から大人へと成長していく過程がビジュアルとしてもしっかり伝わってくる。
医師のアルドのなんとも言えない落ち着いた雰囲気が良い。
過去の出来事に似てる夢をみるのは、自分でも気づかない内にトラウマや傷になっているなあと思うので、クララの見た夢を思うと胸が痛んだ。
生き延びたからこそ孤独
ホロコーストを生き延びた対価は家族を失った孤独。あまりにも惨いけど、
このような状況に置かれた人はきっとたくさんいたのだろうな。
孤児であることを頑なに認めない主人公の少女クララの姿が切ない。孤児であること=両親の死を認めることだからだろう。
残された方が辛い、そう思ってしまっても仕方がない。
そんなときに父の姿を重ねられる医師アルドと出会い、孤独で暗いクララの世界に少しだけ色が付いたような印象だった。
明確にでは無いのだけれども、終わりの方まで書いてしまうと中にはネタバレと感じる人もいるので、続きはちょっと下げて書きます。
終わり方はちょっぴり切なかったな。幸せであるけど、解釈によっては再び残されることになってしまう。でも、そのシーンの描写があるからこそ、クララにとってアルドがかけがえのない存在だったと同時に、アルドにとってもクララがとても大切な存在だったことがより強調され、二人の関係性がより美しく見えた。
友人関係か親子関係か、もしくは…
まず単刀直入に『この世界の片隅に』をパクったような邦題がダサい。鑑賞した後だと、この邦題を付けたニュアンスはなんとなく理解できるものの、にしてもイマイチ。
ホロコーストで家族を失った、ハンガリーの42歳の婦人科医師と16歳の少女の心のつながり。出番当初は、幼さが抜けきれない雰囲気を醸し出していた少女が、医師と出会い生活を共にしていくうちに、大人の女性のそれになっていく。一方の医師も、最初こそは最低限の触れ合いしかしなかったのに、日を重ねるうちに少女に対する態度が変化していく。
両者の関係は、果たして友人なのか親子なのか、もしくは…といった、今にも一線を超えそうで超えない関係がポイント。これをピュアと感じるか、じれったくてイライラするかは人それぞれ。
正直言って物語の吸引力は薄いし、背景でチラつく戦後ハンガリーを覆うスターリン圧政を把握しておかないと、途中で付いて行けなくなる可能性が。ラストは一応のハッピーエンドを迎えるも、どこか不穏さも感じさせるあたりは、動乱に翻弄されていく同国の将来を暗示させるといえるかも。
余談だが医師役の俳優は、ハンガリーで起こったシリアルキラーの連続殺人事件を扱った映画で犯人役を、そして少女役の女優はその映画で犯人に殺される女性を演じていたとか。それを踏まえると、本作での役柄との対比が効いている。
繊細に描く、言葉のない関係
第2次世界大戦後、ホロコーストを生き延びたある男と、少女の出会い。
静かなブダペストの街に残す二人の奇跡。
恋か、愛か、それとも情か?
名前のない感情を、小説のような丁寧な描写で紡いでいく。
観終わった後、じんわり、暖かく、そして希望に満ちる名作!
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