「やっぱりパヴァロッティ」甦る三大テノール 永遠の歌声 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
やっぱりパヴァロッティ
“三大テノール”の競演は、1990~2003年にわたって、日本を含めて数十回も行われたらしい。指揮者もJ.レヴァインやM.アルミリアートなど、その時々で変わっている。
DVDも、サッカーW杯に合わせたローマ('90)、ロサンゼルス('94)、そしてパリ('98)版が見つかる。
この映画はその中で、Z.メータが指揮した一番最初のローマ公演と、4年後のロサンゼルス公演に関するドキュメンタリーであった。よって、“三大テノール”の全貌を描いたものではない。
当時の映像も出てくるが、基本的には、公演の映像とインタビュー映像で占められる。ドミンゴもカレーラスも、もはや白髪の老人である。
自分は、何も知らないので観に行っただけで、内容は期待していなかった。
しかし、始まってすぐに、パヴァロッティとドミンゴのライバル関係が語られ、「これは面白いかも」と引き込まれた。実際、映像を見ても、パヴァロッティとドミンゴは、始めの頃は隣り合っていないように見える。
またカレーラスが、何度もパヴァロッティに対する敬意の念を語る。
このように、3人の関係性とその変化が、少し垣間見える内容になっている。
ドミンゴは、「オペラの曲だけでは、観客を納得させられない」と語る。
特にこの映画においては、純粋なオペラの曲はプッチーニ作曲の定番がほとんどで、かなり乏しい。
実際のところ、コンサートのハイライトは、「誰も寝てはならぬ」を除けば、「オ・ソレ・ミオ」や、F.シナトラの前で歌った「マイ・ウェイ」だったりする。
「音楽はみんなのもの」という意見がある反面、「俗化」とか「安っぽい」という意見も出る。自分としてはどうでもいい話だが、せっかく“三大テノール”なのだから、もっとオペラの曲が聴きたかったとは思う。
しかし、それでは8億人は視聴しないだろうし、CDがミリオンセラーにはなるまい。
この映画を通して分かることは、純粋にカレーラスの復帰を祝い、どれくらい売れるかも分からず、アンコール曲さえも用意してなかった、一番最初のローマ公演こそが、最高のコンサートだったのだろう、ということだ。
予告編に出てくる、「オ・ソレ・ミオ」のパヴァロッティの“トリル”はローマ公演のもので、他の出演者を驚かせたアドリブだったという。
自分としては、やっぱりパヴァロッティあっての“三大テノール”だと思った。既にはじめの方の「帰れソレントへ」で、自分のボルテージは一気に高まった。
最年長であり、どこか愛らしくて、何より素晴らしい声の持ち主である。
パヴァロッティが、オペラの枠を超えたスターだからこそ、“三大テノール”が広く注目されたはずだ。
映画館は、暗いので良い。涙を流しても知られることはない。
緊急事態宣言下の渋谷で、しばしの間、コロナ禍を吹き飛ばしてくれた作品であった。