由宇子の天秤のレビュー・感想・評価
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時に真実は人生を変えてしまう恐ろしさを持つ
人は生きていく上で、全て真実だけで全く嘘をつかない、嘘をつかなくても隠すことがなかったら、これまで以上に人は簡単に傷つき、とても生きづらい世の中になってしまうだろう。
ドキュメンタリーの概念はきっと真実をありのままに視聴者に伝えることで、由宇子はその信念に基づいて、ドキュメンタリー制作に携わってきた。
しかし、嘘も貫けば、それを覆す証拠や立証できる人物がいなければ、きっといつの間にかに真実になり得るであろう。
そこに被害者、加害者の関係性がなければ関わっている人間が少ないほど尚更である。
この作品においても、それが真実であるということを信用するにはその人に対しての信頼が基本あるはずである。その人が真実を言っているかどうかは当人以外はわかるはずはないのだから。そして、マスコミや周囲の人が騒ぎ立てた噂だって、本当か嘘かもわからないのだ。
由宇子は自分の信念である、真実を伝えることが父の不貞により揺らいでしまっていた。萌を、父を、自分を、塾生を守るためにはこのまま罪を親子で背負っていくべきだと考えたが、萌の父が自分の目の前で娘のことを思い、自責の念も抱え、涙してる姿に良心の呵責に苛まれたに違いない。
人は嘘をついている相手に真摯に向き合われると、塗り固められた嘘の壁も一瞬にして崩壊してしまうのだ。それが志帆であり、由宇子なのである。
私たちはどちらを選ぶべきか…答えの出ない問いである。
優しさと厳しさを併せ持った勇敢な演技をみせてくれた瀧内公美さん、萌役の河合優実さんは思春期の多感な表情と雰囲気を見事に演じていらっしゃいました。
そして、岬の兄妹のお二人も全く違った一面を魅せてくれ、他のキャストの方も素晴らしく、この152分を堪能させてもらいました。
瀧内公美の代表作になった
満席が続くとのことで平日に観に行ってみたが、自分が見た回も満席だった。
最期の最後まで揺さぶり続けられていく展開にあっという間の2時間半、体感時間1時間ほど。これだけ反響があり、物語や登場人物にまで没入させてくれたのは役者の力が大きいと感じた。全員役の人に見えていた不思議な感覚になった。
「彼女の人生は間違いじゃない」から新作が出る度に見続けてきた瀧内公美が代表作を作ったと帰り道に思った。2時間半出ずっぱりの彼女の存在感が映画をよりのめり込ませる結果になったのは間違いない。
彼女の作品選びのセンスにこれからも期待をしたい。
2021年を代表する一本
重層的で緻密に練り上げられたストーリーと抑制の効いた演出、そして俳優陣の迫真の演技。
これは2021年を代表する圧倒的な一本だ🎥
教育現場、家族の領域、ジャーナリズムの世界での出来事を通して、自らの日々の在り方へと思いを巡らせながら映画を見ることの歓びに浸る2時間30分だった。
報道する側の正義感と報道される側の恐怖
自分(たち)は正しいと信じている人たちは厄介だと思う。「あなたのためよ」とか「国民の知る権利のため」とか言い出したら怪しんだほうがいい。マスコミが目の敵にされるのも、「知る権利」という大義名分を掲げながら実は興味本位で人のプライバシーに踏み込むからだ。もちろんそんなプライバシーに踏み込んだ内容を知りたがっている人たちが多数いることもたしか。知る権利と報道される側の権利の問題は簡単には解決しない。
本作の主人公・由宇子はドキュメンタリー映像を作るジャーナリスト。自殺した教師と生徒、双方の遺族のインタビューを撮影しようとする。学校、教師の遺族、生徒の遺族、それぞれの言い分があってそれを偏ることなく正しく伝えようとする由宇子の姿は正義感に溢れていた。
でも、父親が経営する塾に通う女子生徒の存在や、放送局の上層部の考え等が絡まって、さらにはいろんな嘘が明るみになることで、何が正義なのか、どれが本当のことなのかわからなくなる脚本はなかなか迫力があった。由宇子が報道される側の恐怖を誰よりも理解しているのがリアルに感じた。彼女は自分が100%正しいわけじゃないと理解していると思う。
そして、ラスト。あんな終わらせ方するとは思っていなかった。何も解決していないし、むしろ状況がわるくなっている気さえする。でも、そこもリアルだった。
内容は全く異なるが、同日に鑑賞した「空白」とテーマがカブる気がした。正義・正しさ、報道の姿勢、遺族の悲しみ…。現代社会で無視できないテーマだ。
こんな『天秤』はいやだ。
ひどい社会になったものだ。
日本はぶっ壊れている。
もう、そう思わざるをえない。
そこから始めないといけないのではないか。
『天秤』が必要なぐらいに社会がもうぶっ壊れている。そこそこ健全で、そこそこ確かなものが作品の中にはひとつもない。
由宇子の『天秤』はそんな不確かな中を生きている何かが足りないみんながちょっとずつでも幸せになれるかどうか、生きている実感が持てるかどうか、そこだけが基準でまったくもって間違ってはいなかった。充分すぎるぐらいに人としても尊敬に値する。
でも、そんな由宇子をもってしても、どうにもならなかった。
もしかしたら由宇子に必要だったのは由宇子が相談できる人だったのだと思う。
これだけの人がここまで追い込まれるということは、この社会が今、『詰んで』しまっているということなのだと思う。
『この世界の片隅に』ある話ではないというところに立たないといけないのではないのか、そんなことをこの作品を観ながらいろんな場面で考えていた。
簡単に個人が追い込まれてしまう社会、安心とか安全から程遠い社会に自分たちはたどり着いてしまったようだ。
2つの事件から構成される2つの視点。事実と正義が揺らぐ傑作。
ドキュメンタリーディレクター・由宇子が追う女子高生いじめ殺人事件と、その彼女の父から告げられた衝撃の事実。この2つの事件は交わることなく、この映画は進行していくが、由宇子は2つの事件の間で揺れ、その心情の変化や次々と知る情報から、思わぬ方向へ揺らいでしまう。
まずドキュメンタリーディレクターと言う設定が良い。
真実を追求しなければならない立場にあり、そのために由宇子は出来るだけ遺族に寄り添う形で真実を聞き出そうとしている。そのためには上に盾突く事もあり、この辺りはジャーナリストとしての神髄を見せられる。
しかし、その一方自らの家族にのしかかった真実や、遺族に寄り添う事で互いに心を開いていく中で、彼女の中に守らなければならない事も増え、やがてそれは真実や正義がどんどんあやふやなままエンディングを迎えるという何とも言えない展開だった。
この映画は今までに見たことのない視点を我々に与えている。
2つの事件、事象を背負った場合、自らが本当に自分の中の答えとなるものを実行できるか。
事実を追うだけの映画なら割とベタだし(最もドキュメンタリーとはそのことだ)、背負った苦悩を描き出す作品も多い。しかし、2つの間でどういう判断するか、を描く作品なんて見たことない。秀逸だ。
あと個人的に由宇子が教え子を守るために法を犯そうとした点だ。よく「法さえ犯さなければ何やったって良い」みたい事を聞くが、あれって薄っぺらいな、と。法を犯しても守れる事もあるなら、それが本人にとっては善になるのか。この描き方もまた私に新たな着眼点をくれた。
本当まさに現代は正義の暴走が止まらない。この映画のタイトルで言えば、天秤がちょっとでも片方に傾くとバランスが取れないほどそちら側に傾いてつり合いが取れない。そして正義を振りかざし、善悪の答えを知ったように超情報化社会の中に足跡を残す。ツイッターやヤフーコメントなんかがまさにそうだと思う。
しかし、他人が簡単に一つの事象を善悪色付けしたり、正義を振りかざすことなんてとても難しいことである。最後の最後までこの映画は明確な答え合わせはされないまま、最後は鑑賞した人に考えや思いを問いかけたような作品であった。
またこの作品は役者陣の演技力なしではあり得ない。まずそこだと思う。2時間半音楽もなく、感情もものすごく抑えられている。観る側の集中力を切らさないのは役者陣の圧倒的演技力あってこそなのだと感じた。
この天秤、メディアの人はどう観る?
由宇子の真実を求め、時に貪欲に突き進む姿に、黒木瞳主演の「破線のマリス」を思い出した。映像編集者である彼女が、仕事への熱心さから来る真実への思い込みにより、由宇子のように第三者から加害者側になってしまう話だ。
この世の中、いつ入れ替わっても不思議ではない、被害者と加害者。それを伝えるメディアは、ドキュメンタリーと言えど、編集をしてしまえば、完全なるドキュメンタリーとは言えない。
今ニュースになっている様々な問題は、どこまで事実でどこまで掌を加えたのか?捏造なのか?と判断できない案件が山積している。
由宇子に次々と起きる問題を、私ごととして置き換えて考えさせるところが出色の作品。物事は白黒だけではなく、灰色を上手く使うことが肝要。なるたけ人も自分も傷付かず、上手く立ち回れたら良いのだが。神様には顔向けできる程度に。
襟を正して、今後の人生に向き合わなければ、と思わせてくれた社会派の映画。
音声が何箇所か聞きづらかった分、更に気を抜かず一言一句聞き漏らすまいと神経を尖らせ緊張して観た。
パンフを購入すると、その後の少し明るい希望が見える仕掛けがあるそうで。それって、ズルッ。
その他気づいたこと。
①由宇子のお父さん、自分の不始末を娘にばかりやらせすぎでは?
②亡くなった先生が好きだったパン。一旦仏壇に備えてから食べてほしかったな。
③父子家庭、母子家庭の家の中の違いがよく表されていた。
④役者さんが皆素晴らしい。
実際メディアのお仕事されている皆さんは、どのように感じたのでしょう?
これは衝撃的ではない。
登場人物それぞれの日常なんだと思うんです。
ずっとキープオンするんです。
傷つけ合うんです。
イライラするんです。
喜び合うんです。
満ち溢れるんです。
立ち向かうんです。
逃避するんです。
人生はキープオンするんです。
と私は受け止めた。
みなさんはどう?
パン
観ていて飽きず面白かったが、帰りにいろいろ考えてしまった。子供に関わる場面は悩ましい。他には、パンをゆっくり食べる場面とかを思い出した。
たまたま観た後に主演の俳優さんが挨拶された。応援したくなる映画でした。
好きだ
瀧内公美さんが、来場していてビックリ。
素敵な方でした。
過去にメディアの見出しで見た様な話しを、ドキュメンタリーかな?タッチで展開して見る者を吸付ける、秀逸。瀧内さん、素敵です。
所詮人間、揺れる気持ち、判断、感情
入り混じった人物を好演。
最期は、観た者に判断を投げ掛ける演出に俺は○!
『死んだ方がマシ』だらけ。
とんでもない傑作。
平日なのに満席。
席を予約しておく事をお勧めします。
海外でも大絶賛「由宇子の天秤 」
『死んだ方がマシ 』がいくつも降ってくるのに
その中で魅せるみんなの笑顔。
どんなに辛くても冷静な程
“職業病”という沼にどっぷりな主人公を
何度も見つめ治す。
だって、俺なら気が狂ってます、きっと。
そして日本のメディアを刻々と考えさせられる内容は
映画という手法だからこそ伝わる。
春本雄二郎 監督から名刺頂きました。
全国民に観て欲しい。
この監督、絶対に有名になる。
でも、なった後も同じ気持ちで
メディアに接していられるのか。
興味津々です。
タイトルどうりの映画で、ちょっと珍しい。
報道のあり方と人間の良心を天秤に掛けたら、あなたはどちらを選択しますか?
どストレートの映画で、かえってすがすがしい。また、人間の弱さも描かれて好感がもてます。
当初は真実を報道するのが信念の主人公についていけない。が、塾講師をしている父親が生徒と不純異性交遊が判明してから、俄然面白くなります。ドキュメンタリータッチで私の好みではないのでが、最後まで引っばっていきます。
結末については、観客によっていろいろ意見があるでしょう。私はあの結末に反対です。
アクセルとブレーキを踏み間違えて、母子を死なせてしまったと言われる元通産省幹部だった人の事故、真実はどうだったか思い起こしました。
全ては藪の中
設定を由宇子に絞って進行させることで見てる側をどんどん迷わせる。倫理や正義と、保身?というか今の環境を壊せないという感情の狭間、まさに【天秤】がグラグラして… 何度ため息ついたことか。ホント胃が痛くなる2時間だった。
劇中の由宇子のセリフ「真実が幸せ?正しい?とは限らない(?ウル覚え)」は製作中の事件と父親と相手への対応と当事者としてのラストの出来事全てにかかってきて、ドキュメンタリー作家のアイデンティティも揺さぶってくる。
ホントいやーな話だけど、ちゃんと向き合って考えるべきテーマだわ… おれの日常のすぐ隣でいつ起きるかわかんないもんね…
"立場"によって変わる正しさ・正義
まず、ドキュメンタリー番組制作に携わった経験がある者としての感想は、番組制作における「あるある」が詰まってて笑ってしまった(さすがに、あんな嫌な局Pに会った事はないけど)。当たり前だがバラエティやドラマ、報道などの番組を作るには製作費がかかるが、中でもドキュメンタリーは予算が空前絶後に低く、あれこれ試行錯誤する必要がある。おそらく主人公の由宇子も、予算が潤沢でない番組に携わっているのだろう。
閑話休題。
本作の登場人物は、とにかく"立場"が入れ替わる。初見は誠実なDに見える由宇子が、時おり取材協力者の希望を逸脱してまでカメラを向けるあざとさ(この辺も実にテレビマンらしい)を見せたかと思えば、仕事とは関係なく被写体に誠実に寄り添う。キーパーソンである女子高生の父親も、初見は暴力的な人物かと思わせておいて、一方で娘思いでかつ義理堅い性格の持ち主という顔も見せる。そしてその女子高生も、由宇子の父親も、由宇子が追っていた自殺事件の遺族も、初見とは異なる"立場"が徐々に露呈してくる。
キャッチコピーの「正しさとは何か?」でも表されているように、何が正しくて何が悪いのかは、登場人物たちの"立場"によって変わってくる。
「正しさ」、「正義」ほど信用できない言葉はない。だからナチスが「正義」としてホロコーストを行えば、仮面ライダーも「正義」のためではなく「人間の自由」のためにショッカーと闘った。
結果として本作はアンハッピーエンドに括られるのかもしれない。ただ、ラストに由宇子が取る行動は、意図は違うが森達也の『放送禁止歌』のそれとダブる。
そもそもハッピーエンドかアンハッピーエンドかを決めるのも、観た人の“立場”によって変わってくる。
ハードな作品。監督脚本の気合いが感じられました
高校教師と生徒とのスキャンダル後の自殺事件のドキュメンタリー監督と同時に父の経営する塾での生徒の妊娠騒動。主人公の天秤にかけられる人生が社会の現実の狭間でもがいている様でとてもリアルに描かれています。重苦しい空気感がラストまで続き爽快感は全くない作品ですが
見ているものに強く訴える力のある作品でした。生々しいテーマで誰にでもお勧めできる作品ではないですが監督と関係スタッフ、出演者の気合を感じる作品でした。
当日は監督自らロビーでお客さん一人一人に名刺を配られてました。頭が下がります。
一見の価値ある作品。
全編に漂う閉塞感はまさに今の社会環境を彷彿とさせる。エンドロールに音楽もなく淡々と終劇を迎えることで渾沌としている日常性をより意識させられた。
正しさとは真実とは違うんだ、正しいと主張し万人に認知されればそれが正しさなんだな、嘘が正しさにもなりうるし、最後は当人の良心の判断に委ねられる。だが偽りの正しさは良心に過剰に接しすぎると揺らいでくる、そして嘘の正しさに耐えられなくなる。
都合の悪いことは触れたくない、思い出したくないは嘘を真の正しさと信じたいだけかもしれない。
真実=正義?
上映時間中、ずっと内蔵がキリキリするのを感じていた。
多くの人が、悪意からではなく、自分や誰かを守るために最善と信じて、嘘をついたり隠し事をする。
ジャーナリズムだって、結果的には誰かにとって都合のいい事実(らしきモノ)を抽出して並べているに過ぎない。
その「真実」によって誰かが被害を被ることが明らかな時、「正義」の名の元にそれが太陽の下に晒されるコトは、本当に「善きこと」なのか。
見終わって思い出すと、この映画の中では、あえて「真実」には触れられないことに気付く。大事なのは真実じゃないんだな。
でもそこには確かに人々の生活がある。
映画としてはやっぱり役者陣の熱演がスゴイ。
主人公は言うに及ばず、その父親、生徒の父親も素晴らしいけど、特に登場する子供たちのリアルさ。
「これはすげぇモノ観たな」って感じ。。
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誰もが天秤にかけ迷っている
ドキュメンタリー・ディレクターの由宇子。
女子高生の自殺、そして彼女との関係を噂された男性教師の死の真相を追う由宇子。
父と二人暮らし。
父が営む学習塾を手伝う由宇子。
素晴らしい父であり、素晴らしい先生である父。
塾の生徒と関係をもった父。
真実を見誤り、真実を隠そうとする由宇子。
色々な真実があった。色々な真実があることに気づかせてくれる作品だった。
これは今年の日本映画のベストの一本だろう。
それにしても瀧内公美さんが素敵だった。主演女優賞は『茜色に焼かれる』の尾野真千子さんとの一騎討ちになるのでしょうか。
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