由宇子の天秤のレビュー・感想・評価
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どう受け止めたらいいのか、、
信念がぐらつくほどの力を持った作品
人は、常に何かを選び取って生きていくものだと常々思っていますが、こんなにしんどい選択を1人の人間に次々と仕掛ける物語に、観ている私たちも気持ちの共鳴を感じながら、どんどんしんどくなっていく…でも、「どうなるんだろう」「どうするんだろう」そんなことが気になって、最後の最後までずっと釘付けでした。
「本当のこと」は、それを伝えているもの、つまり当事者本人にしか分からない。
伝えられた相手が、伝えられたことを信じればそれが「真実」として物事が進み、人を動かします。でも、真実を伝える正直さや、正しいと思う正義が、余計な、あるいは不幸な結果を生むこともある、と…映画を見て、そんな感想を持ちました。
主人公の由宇子は、自分の信じた「真実」を世に伝えるため、その一心で突き進む、とにかく真っ直ぐで怯まない、凛々しく格好良い女性です。
が、そんな彼女に「真実をそのまま伝えられない」不条理や不都合が、ごく個人的な範囲で、全く自分には非がない状態で起きます。
責任感の強い由宇子は、不都合の当事者が自分の一番身近な人たち(うち一人は「自分が守るべき」弱い立場の少女)なので、自身の責任において事態を回収しようと試みるのです。
しかし、それは徐々に彼女を追い詰めていきます。
「本当のことが周りに知れたら、その当事者に取り返しのつかない危害や不幸が襲い掛かる」ことが考えられるので、そうならないように由宇子は奔走します。当事者の少女から一番の信頼を得て、どうするのが彼女にとって最善なのかを考え、守ることに懸命になります。
守れそうな方向へ物事は進みかかるのですが、またそこに予想もできない別の真実(おそらく少女の嘘)が第三者の発言で突きつけられます。
世間の嫌な空気や、ネットやメディアの無責任な発言や煽り、そういうものとは「自分の信念」を以て闘えることも多いのですが、信じた相手がやむにやまれぬ状況でついた嘘や虚偽行為に自分が向き合う時、どうすればいいのか…答えはそう簡単には見つからない。映画は「では、貴方ならどうするのか」を見ている側に容赦なく問いかけて来ます。
守ろうとしたその子は自分に嘘をついていたのか…由宇子は本当のことを知ろうとしますが、失敗してしまいます。当事者の少女はその結果暴走し、不幸な事故に遭ってしまいます。
少女を救うため、彼女の父親に、自分の誠意を以て、真実を告げようとしますが、ここでも失敗し、いきなり命の危険に関わる目に遭います。
正直であること、誠実であること、私はそんな価値観に支えられて生きています。
しかし、この映画で描かれている物語を見てしまうと、そんなものは厳しい現実の前にはいとも簡単に崩壊するものだと思い知らされます。
まさに、「天秤」でぐらぐらとするように「嘘や不誠実が必要な場面もある、不可抗力となることもあるのだ」と納得せざるを得ませんでした。
だからと言って、自分の価値観が変わるということはないのですが、人が自分の身を守るため、生きて行くために「使わねばならない」手段に嘘や偽りがあるのも厳然たる事実。
映画を見た後、多くの人は、考えるのでなく「考え込んでしまう」そんな「ずっしりと、とてつもない重さ」のある作品でした。
こんなにすごい物語を書き、映画を生み出した春本監督、すごいキャラクターを体現した瀧内公美さんや河合優実さん、梅田誠弘さんをこれからも追いかけたいと思います。
【”世界は善意と嘘と少しの悪意で出来ている。”正義と誹謗中傷などの悪意、嘘、忖度に揺れる心を、瀧内公美が渾身の演技で魅せる。不可思議な人間の心の機微を炙り出した世界観にドップリと浸った作品でもある】
ー 今作の主人公を演じる、瀧内公美さん
・「日本で一番悪い奴ら」での淫蕩なシャブセックスをする婦人警官にビックリしつつ一発でやられ、
・「彼女の人生は間違いじゃない」での福島第一原発事故で、仕事を無くした父(保証金で食べている:光石研)と小さな家に住む福島県公務員と、週末東京でデリヘル嬢を掛け持ちしながら生きる姿にやられ、
・「火口のふたり」にビックリし(殆ど、全裸じゃん!)
・「裏アカ」・・・、は無かった事にして・・・。(スイマセン・・)
個人的には、潔く肌を出しながら、物凄い演技をする女優さんである、と思っている。
そして、4度目の驚きの作品を鑑賞した。ー
◆感想
・序盤は、ドキュメンタリー映画監督の由宇子(瀧内公美)が、女子高生自殺事件を追う展開に、”メディアの過剰な演出と、学校側の隠蔽体質を追う映画かな・・”と思いながら、観賞。
・だが、物語はこちらの予想を遥かに超える展開で、怒涛の如く進んでいく。
ー 女子高生自殺事件のドキュメンタリー作品では、正義の側に立つ由宇子が、父親(三石研)のまさかの行為に動揺し、ドキュメンタリー作品放映のために、それを隠蔽する側に回って行く様・・。
アイロニック且つ、人間の弱さ、狡さ、忖度する心を、瀧内公美さんが、ほぼ笑顔無き演技で魅せる。ー
・父親が経営する学習塾に通う、父と関係を持った女子高生に近づき、優しく勉強を見てあげたり、ご飯を作ってあげたり、お金の無い父親の代わりにガス代まで払って・・。
ー ここでの、彼女の行為は善意なのか、狡猾な行為なのか・・。彼女の心は、揺れている、揺れている・・。ー
・物語は、ドキュメンタリー製作と、父親が犯した行為を隠蔽しようとする由宇子の二つの顔を並行して描いている。
そして、ドキュメンタリー作品で描こうとしていた”学校の隠蔽体質を告発する”と言うテーマが根底から崩れ落ちる真実が、露わになり・・。
ー このシーンも、真実を知ったのは由宇子だけ、という絶妙の設定が効いている。そして、父が関係を持ったという女子高生の”ある噂”。
由宇子の心は、更に揺らぎ始める。
正義と悪意と、忖度と、懐疑心がせめぎ合う心の葛藤。ー
<ラストシーンは、物凄くシニカルだ。
真偽が不明なのに、父と関係を持った女子高生の一度は心が通じ合った父親に言ってしまった言葉。
ー 私は、このシーンは由宇子の正義の心が、悪意への誘惑に勝ったシーンだと思った。ー
そして、女子高生の父親から衝動的に首を絞められた後に、息を吹き返した由宇子のスマホに残された伝言。
”貴女のドキュメンタリー作品は・・”
153分という長尺さを全く感じさせない、見事なストーリーテリングと、瀧内公美さんや光石研さんを始めとする俳優陣の演技と共に、この作品が醸し出す、不可思議な人間の心情の機微を炙り出した世界観にドップリと浸った作品である。>
前評判通りの傑作
時に真実は人生を変えてしまう恐ろしさを持つ
人は生きていく上で、全て真実だけで全く嘘をつかない、嘘をつかなくても隠すことがなかったら、これまで以上に人は簡単に傷つき、とても生きづらい世の中になってしまうだろう。
ドキュメンタリーの概念はきっと真実をありのままに視聴者に伝えることで、由宇子はその信念に基づいて、ドキュメンタリー制作に携わってきた。
しかし、嘘も貫けば、それを覆す証拠や立証できる人物がいなければ、きっといつの間にかに真実になり得るであろう。
そこに被害者、加害者の関係性がなければ関わっている人間が少ないほど尚更である。
この作品においても、それが真実であるということを信用するにはその人に対しての信頼が基本あるはずである。その人が真実を言っているかどうかは当人以外はわかるはずはないのだから。そして、マスコミや周囲の人が騒ぎ立てた噂だって、本当か嘘かもわからないのだ。
由宇子は自分の信念である、真実を伝えることが父の不貞により揺らいでしまっていた。萌を、父を、自分を、塾生を守るためにはこのまま罪を親子で背負っていくべきだと考えたが、萌の父が自分の目の前で娘のことを思い、自責の念も抱え、涙してる姿に良心の呵責に苛まれたに違いない。
人は嘘をついている相手に真摯に向き合われると、塗り固められた嘘の壁も一瞬にして崩壊してしまうのだ。それが志帆であり、由宇子なのである。
私たちはどちらを選ぶべきか…答えの出ない問いである。
優しさと厳しさを併せ持った勇敢な演技をみせてくれた瀧内公美さん、萌役の河合優実さんは思春期の多感な表情と雰囲気を見事に演じていらっしゃいました。
そして、岬の兄妹のお二人も全く違った一面を魅せてくれ、他のキャストの方も素晴らしく、この152分を堪能させてもらいました。
瀧内公美の代表作になった
2021年を代表する一本
重層的で緻密に練り上げられたストーリーと抑制の効いた演出、そして俳優陣の迫真の演技。
これは2021年を代表する圧倒的な一本だ🎥
教育現場、家族の領域、ジャーナリズムの世界での出来事を通して、自らの日々の在り方へと思いを巡らせながら映画を見ることの歓びに浸る2時間30分だった。
報道する側の正義感と報道される側の恐怖
自分(たち)は正しいと信じている人たちは厄介だと思う。「あなたのためよ」とか「国民の知る権利のため」とか言い出したら怪しんだほうがいい。マスコミが目の敵にされるのも、「知る権利」という大義名分を掲げながら実は興味本位で人のプライバシーに踏み込むからだ。もちろんそんなプライバシーに踏み込んだ内容を知りたがっている人たちが多数いることもたしか。知る権利と報道される側の権利の問題は簡単には解決しない。
本作の主人公・由宇子はドキュメンタリー映像を作るジャーナリスト。自殺した教師と生徒、双方の遺族のインタビューを撮影しようとする。学校、教師の遺族、生徒の遺族、それぞれの言い分があってそれを偏ることなく正しく伝えようとする由宇子の姿は正義感に溢れていた。
でも、父親が経営する塾に通う女子生徒の存在や、放送局の上層部の考え等が絡まって、さらにはいろんな嘘が明るみになることで、何が正義なのか、どれが本当のことなのかわからなくなる脚本はなかなか迫力があった。由宇子が報道される側の恐怖を誰よりも理解しているのがリアルに感じた。彼女は自分が100%正しいわけじゃないと理解していると思う。
そして、ラスト。あんな終わらせ方するとは思っていなかった。何も解決していないし、むしろ状況がわるくなっている気さえする。でも、そこもリアルだった。
内容は全く異なるが、同日に鑑賞した「空白」とテーマがカブる気がした。正義・正しさ、報道の姿勢、遺族の悲しみ…。現代社会で無視できないテーマだ。
こんな『天秤』はいやだ。
ひどい社会になったものだ。
日本はぶっ壊れている。
もう、そう思わざるをえない。
そこから始めないといけないのではないか。
『天秤』が必要なぐらいに社会がもうぶっ壊れている。そこそこ健全で、そこそこ確かなものが作品の中にはひとつもない。
由宇子の『天秤』はそんな不確かな中を生きている何かが足りないみんながちょっとずつでも幸せになれるかどうか、生きている実感が持てるかどうか、そこだけが基準でまったくもって間違ってはいなかった。充分すぎるぐらいに人としても尊敬に値する。
でも、そんな由宇子をもってしても、どうにもならなかった。
もしかしたら由宇子に必要だったのは由宇子が相談できる人だったのだと思う。
これだけの人がここまで追い込まれるということは、この社会が今、『詰んで』しまっているということなのだと思う。
『この世界の片隅に』ある話ではないというところに立たないといけないのではないのか、そんなことをこの作品を観ながらいろんな場面で考えていた。
簡単に個人が追い込まれてしまう社会、安心とか安全から程遠い社会に自分たちはたどり着いてしまったようだ。
2つの事件から構成される2つの視点。事実と正義が揺らぐ傑作。
ドキュメンタリーディレクター・由宇子が追う女子高生いじめ殺人事件と、その彼女の父から告げられた衝撃の事実。この2つの事件は交わることなく、この映画は進行していくが、由宇子は2つの事件の間で揺れ、その心情の変化や次々と知る情報から、思わぬ方向へ揺らいでしまう。
まずドキュメンタリーディレクターと言う設定が良い。
真実を追求しなければならない立場にあり、そのために由宇子は出来るだけ遺族に寄り添う形で真実を聞き出そうとしている。そのためには上に盾突く事もあり、この辺りはジャーナリストとしての神髄を見せられる。
しかし、その一方自らの家族にのしかかった真実や、遺族に寄り添う事で互いに心を開いていく中で、彼女の中に守らなければならない事も増え、やがてそれは真実や正義がどんどんあやふやなままエンディングを迎えるという何とも言えない展開だった。
この映画は今までに見たことのない視点を我々に与えている。
2つの事件、事象を背負った場合、自らが本当に自分の中の答えとなるものを実行できるか。
事実を追うだけの映画なら割とベタだし(最もドキュメンタリーとはそのことだ)、背負った苦悩を描き出す作品も多い。しかし、2つの間でどういう判断するか、を描く作品なんて見たことない。秀逸だ。
あと個人的に由宇子が教え子を守るために法を犯そうとした点だ。よく「法さえ犯さなければ何やったって良い」みたい事を聞くが、あれって薄っぺらいな、と。法を犯しても守れる事もあるなら、それが本人にとっては善になるのか。この描き方もまた私に新たな着眼点をくれた。
本当まさに現代は正義の暴走が止まらない。この映画のタイトルで言えば、天秤がちょっとでも片方に傾くとバランスが取れないほどそちら側に傾いてつり合いが取れない。そして正義を振りかざし、善悪の答えを知ったように超情報化社会の中に足跡を残す。ツイッターやヤフーコメントなんかがまさにそうだと思う。
しかし、他人が簡単に一つの事象を善悪色付けしたり、正義を振りかざすことなんてとても難しいことである。最後の最後までこの映画は明確な答え合わせはされないまま、最後は鑑賞した人に考えや思いを問いかけたような作品であった。
またこの作品は役者陣の演技力なしではあり得ない。まずそこだと思う。2時間半音楽もなく、感情もものすごく抑えられている。観る側の集中力を切らさないのは役者陣の圧倒的演技力あってこそなのだと感じた。
この天秤、メディアの人はどう観る?
由宇子の真実を求め、時に貪欲に突き進む姿に、黒木瞳主演の「破線のマリス」を思い出した。映像編集者である彼女が、仕事への熱心さから来る真実への思い込みにより、由宇子のように第三者から加害者側になってしまう話だ。
この世の中、いつ入れ替わっても不思議ではない、被害者と加害者。それを伝えるメディアは、ドキュメンタリーと言えど、編集をしてしまえば、完全なるドキュメンタリーとは言えない。
今ニュースになっている様々な問題は、どこまで事実でどこまで掌を加えたのか?捏造なのか?と判断できない案件が山積している。
由宇子に次々と起きる問題を、私ごととして置き換えて考えさせるところが出色の作品。物事は白黒だけではなく、灰色を上手く使うことが肝要。なるたけ人も自分も傷付かず、上手く立ち回れたら良いのだが。神様には顔向けできる程度に。
襟を正して、今後の人生に向き合わなければ、と思わせてくれた社会派の映画。
音声が何箇所か聞きづらかった分、更に気を抜かず一言一句聞き漏らすまいと神経を尖らせ緊張して観た。
パンフを購入すると、その後の少し明るい希望が見える仕掛けがあるそうで。それって、ズルッ。
その他気づいたこと。
①由宇子のお父さん、自分の不始末を娘にばかりやらせすぎでは?
②亡くなった先生が好きだったパン。一旦仏壇に備えてから食べてほしかったな。
③父子家庭、母子家庭の家の中の違いがよく表されていた。
④役者さんが皆素晴らしい。
実際メディアのお仕事されている皆さんは、どのように感じたのでしょう?
これは衝撃的ではない。
パン
好きだ
『死んだ方がマシ』だらけ。
タイトルどうりの映画で、ちょっと珍しい。
人が負うもの〜良心の呵責
ある事件の真相を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内公美さん)の視点を通して、現実社会における厳しさ、理不尽さ、逃れる事の出来ない苦しみや悲しみをリアルに描く。
よく練られた脚本で、キャストの皆さんの緊迫感ある演技がラスト迄続く。社会生活に伴う責任について、改めて考えさせられる作品。
映画館にて鑑賞
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