由宇子の天秤のレビュー・感想・評価
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黙る。隠す。嘘をつく。
常にゴールをずらすように、真実を知らない観客を手玉に取るストーリーだ。
自分は、こういうタイプの作品は、本作も含めて、不快に感じて好きではない。
しかし、「物事はシロクロ決まるもんじゃない」ということが、まさに本作で監督の訴えたいことだったならば・・・。
黙る。隠す。嘘をつく。
主人公までが。
由宇子の行動は、“しがらみ”の中にあり、“しがらみ”で身動きが取れない。
萌や矢野の娘へのケアは、純粋な善意からなのか。あるいは、仕事がらみや、“贖罪”のためという、利害・打算のためでもあるのか。
しかるべき行動をとりたくても、罪を犯した人間だけでなく、周囲の人間が一網打尽に被害を受けてしまう。
テレビ局からは、捏造や隠蔽を求められる。
由宇子が陥る、そういうジリジリした様々な“囚われ”の状況を、リアリティ豊かに描写している点が、本作の最も優れているところだと思う。
キャラクターの設定は、萌の父親のキャラが定まらないこと以外は、良かった。
俳優の演技も、みな納得だ。
瀧内公美は日本の俳優では珍しく“間(ま)”を作ることができるし、川瀬陽太はしょーもない軽さを相変わらず醸し出している。
ただ、150分という長尺を使って、いろいろと詰め込んだわりには、まともに回収されないまま終わったのは残念だ。
「2つのストーリーが、一体どう交わるのだろう?」とワクワクして観ていたが、結局、由宇子が両方に関係しているだけだった。
「俺たちがつないだ(編集した)ものが真実だ」というマスコミの虚構や、困窮した父子家庭における妊娠した娘と父の関係がメインテーマかと思いきや、突然、あっさりと決着が付く。
別に“解決”などしなくて良いのだが、由宇子以外の全員が、どうなったかも分からずにフェードアウトしてしまうような作り方は、大いに不満だ。
また、ここぞという重要な静止のシーンでさえも、常にカメラだけが揺れ動いていたのはどういうわけだろう。
グッと画面に集中することが難しかった。
人間の弱さを炙り出す傑作
人間の弱さを炙り出した意欲作。
人は優しく、正しさを求めて生きていくのだけれど、儚く、脆く、臆病で、結局は嘘をつく。
他人の嘘には厳しいけれど、自分の身に何かあれば、自分もまた保身のために嘘をつく。
そんな矛盾を抱えて生きるがゆえ、結局は社会そのものが矛盾に満ちていく。
何が正しいのかすら曖昧で、誰にも分からなくなる。
はっきり言って、「答えはない」。
ついた嘘は、吐いた本人にブーメランのように戻ってきます。
主人公は誰より優しく、誰より正しくあろうとしたゆえに、一つの嘘が周りの人間も本人も深く傷つける。
その残酷さ。
そして、結局その状況を生むのは、冒頭にも書いた人間の「弱さ」なのだと。
この映画は「正しさ」をもち続けることが難しいこと、そして受け止める側次第ということを、刃物のように喉元へ突き付けてきます。
怖い怖い映画で、観終わった後もこの映画が頭の隅っこから離れません。
ひとつだけ絶対に「間違っている」「正しくない」と断言できるのは、当事者でもなんでもない第三者が、事件における加害者・容疑者の(事件とは全く関係していない)家族をネットに晒し上げ、リンチを加えるってことでしょうか。
「正しさ」を隠れ蓑にし、叩いてもいい相手と思った人間を果てしなく追い詰めて遊び愉悦に浸る行為は、卑怯そのものに過ぎません。
タイトルなし(ネタバレ)
ドキュメンタリーを作る現場人のドキュメンタリーって感じ〜。 正しいことは良い事?正直なとは良い事?何かが起きるとそれを喜ぶ人も居れば、それによって傷つく人も居るし救われる人も居るのは事実。それでも私は事実を知りたいと思う。真実を知りたいと思う。でも当事者になったら由宇子と同じ行動するだろうなぁ〜
滝内さんは素敵な女優さんだなぁ〜
長尺、音楽なし、そして結論もなし…。
笑えないFargo
Fargoはかなり極端な性格や境遇な人がたまたま運悪く集まってしまい、どんどん悲惨な事が起こります。事件はかなり残酷ではありますが、登場人物はそれぞれ自分の家族や行動原理を結構真剣に守るので、それが滑稽に写り、笑っちゃいけないのに笑えます。
本作は極端な人が集まっていないので、リアリティが保たれており、その分極端な事件は基本起こりません。ちょうど中学生日記みたいです。しかし、それでも全く世の中うまくいかず悪い方向に進んで気、休まる暇がありません。
『ようこそ映画音響の世界へ』で映画における音の重要性を学びましたが、本作は劇伴が全くなく環境音のみです。悲しむべき時に音楽でそれを示してくれないので、どう感じるかは見る側に完全に任されています。このため、始終居心地が悪い状態に置かれ、登場人物それそれの生活について心配してしまいます。それが作り手の狙いであれば大成功ですが、作品の重要性を理解しても2時間半この状態に置かれるので見る人を選びます。この作品が配信されても自宅のテレビで集中して見ることは困難でしょう。劇場で鑑賞する意義は十分ありますが高い評価をつけるのもどうかしらとも考えました。
気になったこと、自動車が練馬ナンバーで駅の商店街は私鉄の規模ですが、団地や病院は関東平野の郊外の雰囲気で、事件現場とのバランスが悪い気がしました。『スペシャルアクターズ』の優しい弟君が、高校生に化けています。
由宇体離脱?
保身の為の方便とはいえ許されざる嘘に塗り固められた社会の表皮がバラバラと剥がれ落ちる
登場人物もれなくババが手元に残る不幸の連鎖
死ななかったのかそれとも、、
スクリーンに映し出される個々の人生の躓きに慄く
身近で今日明日にでも起こりうる残酷な現実
語り継がれる秀逸な作品
天秤の如く揺れ動く正義のあり方
これはいい天秤
2時間半あったらしいんだけど長く感じない。脚本が巧みで、退屈だと思う瞬間がほぼなかった。ドキュメンタリー番組の取材と女子高生の妊娠に関するあれこれが同時に進行していき、どちらにも新展開があって、そのタイミングが絶妙。
最後だって、ある人物があることを言い出すのと、知らせが入るのと、順番が逆だったらまた少し意味が違ってきていた。この順番だったから、エンドロールを静かな気持ちで眺められた。
いい人も悪い人もどっちもこの世に本当はいなくて、みんな常に真ん中というか、何かと何かのバランスを取りながら生きているのだなあ的な、まさに心の“天秤”の存在を思う。
そうは言っても由宇子がいい人であってほしいと願いたくなる、魅力的なキャラクターだったから面白く見られたところはある。登場人物のかわいさと、ストーリーの硬質さや深遠さとを、映画がうまく両立させてくれたおかげ。トレードオフになりやすい2要素なのに並び立っていて、それこそ“天秤”がいいところで均衡を保ったなっていう感じがする。脚本の勝利だし、瀧内さんの勝利。
瀧内公美さんのルックスを嫌いな人はまずいないと思うけど、お芝居もまた素敵だった。話し方がとても由宇子。由宇子って人を私は今日初めて知ったわけなんだけど、彼女らしいと思った。彼女がカメラを回すと、そのカメラが捉える人は口を開いてしまう、どんなに話しづらいこともなぜか話しだしてしまうという、半ば特殊能力のような職能持ち。モスグリーンのコートも煙草も車の運転もやたら似合っていて、人たらしで気さくでそれでいて下品ではなく、出てくる女性が60歳だろうが10歳だろうがことごとく彼女にほだされ心を開いていく、それも納得できる。
上映後、パンフレットを買うと最後に心がすっきりする仕掛けがあると監督が案内していて、欲しいなと思ったけど、ロビーが大混雑すぎて買えなかった。誰か内緒で教えてください。あの子の笑顔とかかなと想像しつつ。
社会派?では無くダークエンタメ
多面的な正義感
春本監督は云います。
「人間を描くことこそが、社会をあぶりだすんだ」と。
まさにこの映画は、現代日本の在り方を描いた映画でした。
事無かれ主義に同調圧力で問題をうやむやにし、誰も責任を取らず、何もなかったかのように本質をすり替え、やり過ごす。
警察官僚がレイプしたお友達ジャーナリストの逮捕状を取り下げたり、財務省の決算文書改ざんを苦に自殺した赤木さんしかり、当の本人は、真っ当な成敗を受けることなく、歪んだ正義の代償が陰惨な形でそこら中で溢れ出ているように思います。
まさにこれらは、氷山の一角であり、ただただ表に出ていないだけで、うまくやりすごされた例は五万とあるように思います。
だが、もし自分がその当事者になったらどうするのか。
右の正義か、はたまた左の正義か。
真実に蓋をすることは出来ません。
この映画は、最後カメラを視聴者に向け問いかけます。
あなたならどうしますか? と。
私ならどうする❗️
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