「A BALANCE」由宇子の天秤 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
A BALANCE
「天秤」と聞くと、どうしても司法、裁判などで見かける正義の天秤像を思い浮かべ、由宇子自身が正義であるのかと想像していた。確かにドキュメンタリー番組の制作では、いじめによる自殺に追い込まれた女子高生と、関係が噂されていた教師の自殺事件の真実を追い求める姿が勇ましく思えた。しかし、「誰の味方でもないけど、光を当てることはできます」という言葉により、正義よりもジャーナリズム精神に富んだ女性だったとわかる。善と悪を秤にかけるのじゃない・・・じゃぁ何だ?
木下塾を経営する父・政志(光石研)の罪によって、彼女の心が揺らぐ。真実を求め、表に出すことが使命のはずなのに、隠蔽に走った由宇子。英語のBALANCEの方がしっくりくる。彼女の心自体が揺らいでいたのだ。しかも1人の男子生徒から驚愕の事実を知らされ、戸惑いは大きくなり、その揺らぎは自殺事件の真相を知ったときにさらに振り幅が大きくなる。
ネットの中傷やストーカーまがいの嫌がらせ。被害者も加害者も好奇の目に晒され、普通の生活ができなくなる問題提起。ただ、自殺に追い込んだ側は出てこない。あくまでも1人のジャーナリスト視点で進む物語。
何を信じればいいのだろうか?隠蔽や偽装工作が横行する世の中でもあるし、ニュースさえも信じられなくなる。醜聞が白日の下にさらされれば、築き上げたものが全て崩れてしまうことを危惧して、なんとか最善の道を模索し続ける由宇子だったが、どこかに綻びが生じてしまう。そして萌の子宮外妊娠を知らされ、猶予はない状況だ。
単純な精神のバランスだけではないのが面白い。自分がこんな立場に置かれたらどう対処する?色んなことを自分の身に置き換えてみると、落ち着かなくなってしまいます。「嘘」をついてしまえば簡単かもしれないけど、あっさりと嘘はつかない由宇子。言葉を濁すという手段をとるのだが・・・やがて真実を話そうとする教師の姉や父。萌を問いただそうとする由宇子。ラストの展開は言ってみれば、バランスが崩れてしまった状態に陥るのですが、支点さえも失ってしまったかのよう。もうボロボロですわ・・・測定不能。