「自主製作でここまでの作品を作るのは天晴れです。」由宇子の天秤 東鳩さんの映画レビュー(感想・評価)
自主製作でここまでの作品を作るのは天晴れです。
自主製作でここまでの作品を作るのは天晴れの一言に尽きます。
渋谷の劇場では監督自らチラシ配りをされていて、その情熱にもいたく感心しました。
ただ、そのチラシが継続的な支援を求めるオンラインサロンの勧誘みたいな内容でした。
ここまで頑張って海外のベルリン映画祭に入選しているような監督さんでも次回作を作るのは大変なことなんだなと思うと、なんだか暗雲とした気分になりました。
改めてポスターを眺めてみると海外の映画祭にはたくさん入選しているけど、日本の映画祭は皆無なんですね。
日本にも自主製作映画系を応援すると謳っている映画祭が沢山あると思うんですが、その映画祭って一体誰を支援しようとしてるのかしら?
独り善がりで劇場公開しても客が呼べないアマチュア映画ばかりを選んでないで、この監督こそ支援しろよと思いましたね。
まぁ、日本の映画祭に入選しても無意味だと思って、監督側が無視している可能性もありますが。
内容に関してですが、ちょっと構成がチグハグなところが散見していて、整理されていたらもっと見やすくもっと面白くなったと思いました。
一体何が正しくて何が間違っているのかを観客に考えて貰いたくて、監督が意図的にそうした部分はあると思うのですが、興行的に成功しないと次回作が作れないなら尚更、もっと観客に分かりやすく伝える努力は必要です。
具体的に言うと、主人公と同行するプロデューサーが局から社員として勧誘されている、カメラマンには子供が産まれる、というセリフがあったシーン、あれがもっと前半にないといけません。
それを聞いたからこそ、主人公は自分の父親の醜聞を握りつぶそうとするんじゃないのかと。
現在の形だと、取材する事件では正義感から悪や権力に反抗するのに対し、プライベートでは真逆の、真実を握りつぶす悪を演じています。
主義思想が完全に矛盾していて、観客としてはこの主人公をとても応援できないし愛せません。
父親が教え子を孕ませたことを知った主人公は父親なのに糾弾する。
刑法で罰せられるだけじゃなく世間から袋だたきにされると分かっていても、矛盾したことが許せないから実の父親でも同じように断罪すると覚悟を決めた。
ところが、プロデューサーの昇進やカメラマンに子供が産まれることを知った。
このままでは自分の行動が仲間や他人の人生まで狂わせることなってしまう……。
そこではじめて、主人公は父親の醜聞を握りつぶそうとする。
……のが、せめて愛せる主人公の行動じゃないでしょうか。
その先は、主人公は違法な手段で教え子の堕胎をしてしまう。自己保身のためにも。
加害者側に立ってしまった主人公が、今度は取材する事件で世間から疎まれる加害者家族の肩を持つような番組を作って放送してしまった。自分を正当化する意味でも。
そのあとに、加害者家族が証拠を隠蔽していたことを明かして大問題になってしまう。
主人公は加害者家族に肩入れしたことが間違いだったと気付く。
すると、じつは教え子が男子生徒とも肉体関係を持っていたと知る。
さらに、教え子がウリまでしていた噂も知る。
父親が教え子を孕ませたわけじゃない、きっと別の誰かが孕ませたんだと考えた主人公は教え子を嘘つき呼ばわりして非難する。
すると、嘆き悲しんだ教え子がその場から逃げ出して交通事故に遭ってしまう。喋れない状態に。
真相は闇の中だが、教え子を孕ませたのは自分の父親だったという既成事実が出来上がってしまい、堕胎が教え子の父親や世間にバレてしまった主人公にはバッドエンドが訪れる。
で、よかったような気がします。
まぁ、個人の好みと言われればそれまでですが、その方がシンプルで分かりやすいし、エンタメとして面白いと思います。
社会的なテーマ性や作家性はあるので、この監督に足りないのはエンタメ性です。
それで90分以内に収まって、良いセリフが3個ぐらい、良いシーンが5個ぐらい、良い劇伴も数曲あれば、商業映画も入れた中で今年度邦画のナンバー1を取れたんではないかと思います。
そんな次回作を期待します。
カール三世さん
コメントありがとうございます
その展開も面白いですね
唐突でご都合な交通事故よりかは子宮外妊娠の下りを広げた方が良かったと私も思います
交通事故なら悪いのは加害者であり、道路に倒れ込んだ本人の過失もありますからね
良い作品だとは思いますが、改善する余地は沢山ある映画だと思ってます
東鳩さん、
拝読しました。
私は子宮外妊娠がわかったあたりから、由宇子が放映日まで娘を病院に連れて行かせないで、結果、大量出血で殺してしまうのではないかと思い。そういうバッドエンドを望んでしまいました。そのほうがショッキングな話しになり、由宇子の罪悪感もMAXに達するのではないかと思って期待していました。由宇子の天秤という題なので。ブラック過ぎますか?