「物寂しさを抱えている時に寄り添ってくれる人がいる幸せ、大胆な世界も悪くない」アイの歌声を聴かせて たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
物寂しさを抱えている時に寄り添ってくれる人がいる幸せ、大胆な世界も悪くない
観ようか悩むくらいだったが、口コミに押されて駆け込み。憂鬱な感情を吹き飛ばすドラマティックな展開とAIの多角的な視野を含んだ世界観に魅了された。
転校生はポンコツAIでした…という予告編は沢山観たけど、認知される所からスタートするとは。サトミを初めとしたクラスメイトがAIであることを知りながら隠し通していくことが1つのミッション。そんな所から始まるが、ホントにポンコツ(笑)。周りを考えず突っ込んでいく姿は呆れてしまうが、見離せないのはその研究者が母であること。よって、サトミは必死に押し通そうとする。そうした解れを設定で崩さないことで、役割を全うするため駆け回るシオンの姿に愛着が湧く。
この作品におけるAI描写も、なかなか近未来でありながら、さほど遠くさせないのが良い。あらゆる"便利"を向上させていることと、実験都市的な要素を含んでいることを推測させる街が舞台。だからちょっと先の時代を予感させ、非現実的に感じさせない。一貫して、生活に寄り添うことの可能性と危険性を両面的に魅せる。それでいながらアニメらしいアプローチで描き切るのだから、なかなか上手いと思わせる。
そんなシオンを演じたのは土屋太鳳。最初はミュージカル映画っぽくなるのかなと思ったが、全然違くて良かった。喋り方に畳み掛けるような間、そして伸びやかな歌声…。全てがマッチしている。さらに、サトミを演じる福原遥もハマっている。工藤阿須加もいい抜け感で良かった。そこに声優が層を厚くすることで、アニメ映画としてのクオリティを高めている。アニメ好きを唸らせる理由は、こうしたキャスティングの上手さも一理あるはずだ。
本作の監督の作品はこういう大胆な世界観のモノが多そうでなかなか興味深い。機会があったら観てみたい。そして何より、原作と脚本、監督と重層的に仕事をしたからこそ出したかった色を出せているように思う。今年のアニメの良作の1つに加えたくなる1本。