「嬉しくて、切なくて、いじらしくて、一生懸命で不器用な青春」アイの歌声を聴かせて 高橋直樹さんの映画レビュー(感想・評価)
嬉しくて、切なくて、いじらしくて、一生懸命で不器用な青春
久しぶりにアニメを観て泣いた。こんな体験をしたのは『Wolf Walkers』以来のことだ。
涙が溢れるというよりも、気がつくと鼻がじゅくじゅくしていた。押しては返す心の震えが乾いたはずの瞳を潤す。そんな感じが続いた後、ラスト20分は涙腺が決壊に追い込まれたのだった。
主人公の少女は、AI開発のトップ企業の実験都市で研究を続ける母と二人暮らし。お気に入りアニメソングが流れる目覚まし時計は、彼女が起きると「カーテンを開けますか」と声をかけ、室外の温度や湿度、母の帰宅時間も教えてくれる。『トータル・リコール』のような行きすぎた未来ではなく、AIが日常に溶け込んだ描写が素晴らしい。
少女の名は天野悟美(サトミ)。
クラスの中で「変わり者」扱いされている。その理由は上級生たちの喫煙をチクったからだというが、彼女自身は何も語らない。
ある日、サトミが通う学校に転校生がやって来る。実は母が開発中の人型AI。研究チームは5日間正体がバレなければ汎用性が示せると考えたのだ。
転校生の名は芦森詩音(シオン)。
自己紹介を求められた転校生は、教室でサトミを見つけると一目散に駆け寄り「今、幸せ?」と問いかけ、いきなりサトミが大好きなアニソンを歌い始める。凍り付きそうなその場の空気を和らげたのは、クラス1のハンサムボーイ後藤(ゴッちゃん)だった。
翌朝、母のPCを見たサトミはシオンの正体を知ってしまう。ちょっと変だけど可愛い転校生は瞬く間に校内の人気者になっていく。でも、良い事ばかりは続かない。シオンが予期せぬトラブルで行動停止、AIであることがバレてしまうのだ。
その場に居合わせたのはサトミと同級生4人。幼馴染みで機械マニアの素崎十真(トウマ)、ゴッちゃんと彼を慕う綾(アヤ)、AIを相手に組稽古する柔道部の杉山鉱一郎(サンダー)だ。
朝から深夜まで、ずっと研究を続けてきた母の姿を見て育ったサトミは、お願いだから秘密にしてと頼み込む。決して知られてはならないシオンの秘密を共有した5人は、互いに欠かせない存在として固く結ばれていく。
「今、幸せ?」
初めて会った日にシオンがサトミに投げかけた言葉の意味が明らかになる時、嬉しくて、切なくて、いじらしくて、一生懸命で不器用な青春が弾ける。