「幸せにしてくれる!」アイの歌声を聴かせて おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
幸せにしてくれる!
先週末は観たい作品が何本もあり、本作の鑑賞は平日の仕事帰りとなりました。でも、おかげで120席以上のスクリーンをほぼ独り占めという贅沢を味わうことができ、作品世界にどっぷりと浸ることができました。
事前情報なしでの鑑賞でしたので、キービジュアルから青春ものかなと予想していましたが、そこにSFと淡いラブストーリーを加えたような作品でした。ストーリーもなかなか凝っていて、最後まで楽しめます。
物語は、人間との集団生活の実験のため転入生として高校に送り込まれた、AI搭載の人型ロボット・シオンが、クラスで浮いていたサトミに「幸せにしてあげる!」としつこく関わり続ける中で起きる騒動を通して、高校生たちの友情や恋愛を描きます。本作の中心として描かれるシオンは、いきなり歌い出したり、サトミに何度も「幸せ?」と尋ねたりと、意味不明な行動が多く、周囲の人物を困惑させます。そんなシオンの不可解な行動の裏にある、トウマとサトミと母にまつわる秘密が徐々に明かされ、ラストで冒頭のメルヘンサイバーな世界へ繋がっていきます。冒頭から仕込まれた伏線が回収される展開が、なかなか心地よかったです。
とにかくシオンのキャラが魅力的でした。その魅力は、かわいらしい容姿だけでなく、屈託のない笑顔と建前のない接し方にあるのではないかと思います。変な気遣いや勘ぐりから、互いに傷つかない適度な距離を保って生活することが大切だと思われている現代。なんだかAI搭載ロボットに、人として大切なものを教えられた気がします。
メインキャストは、シオン役が土屋太鳳さん、サトミ役が福原遥さんと、劇場アニメにありがちなタレント起用です。しかし、お二人とも、脇を固める興津和幸さん、小松未可子さん、日野聡さん、大原さやかさんらに引けを取らない見事な演技で、キャラの魅力を引き立たせていたと思います。特に土屋太鳳さんにいたっては、物語の大切なファクターとなる歌声もすばらしく、多才な一面を発揮していました。トウマ役の工藤阿須加くんも、…まあがんばっていたと思います。
評判に違わぬ良作で心が温まりました。アニメが嫌いでないならおすすめです。