「犯罪者になるのも、聖人になるのも、立場次第。」聖なる犯罪者 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
犯罪者になるのも、聖人になるのも、立場次第。
ポーランド映画祭2020の出展作品。ポーランド映画祭の成果なんでしょうね。ここ数年、結構ポーランド映画を観てますが、これは結構好き。クールさを通り越した暴力的なラストが印象的でした。
ひょんなことから田舎町の小教区の教会の司祭代理に収まってしまったダニエルは、少年院を訪れていた神父である「トマシュ」の名を名乗り、「トマシュ」を模倣して神父になり切ろうとしますが。彼がミサで行う「お説教」は、まるで新興宗教のそれ。逆に人々の心に刺さります。
新鮮なミサのふるまいと言葉や告解の対応で、一定の人気を得るダニエル。彼自身が抱いてきた、信仰とイエスキリストの言葉への疑問は、信者への言葉と態度に現われます。が、最後は「祈る」と言うダニエルの姿勢は、人間らしさが匂いたち、更に人々の心を惹きつけて行く。
村で起きた交通事故の加害者とされる男、被害者とされる若者たち。そして、各々の遺族の対立と村八分。真相らしきものを知っているのは、被害者の妹。ちょっとだけ推理小説もどきの展開に入ります。
少年院仲間に見つかってしまった事がきっかけで、身バレしてしまったダニエルは少年院に逆戻り。決闘相手を殺してしまい、火を放たれた少年院の建屋から逃げ出そうとするシーンで物語はお終い。
どれだけ祈ろうが、神は人々に何ももたらさない。と言う「沈黙」と同じ構図の悲劇。なんだけど。心の傷をいやしてくれるのも祈り。大上段から高説垂れる映画じゃありませんでしたが、宗教の効果に関する一面性(村の人々の傷をいやしてくれた)や、その限界(村を離れて行くマルタ/ダニエル自身の暴力性)を身の丈の視線で描いた小品。
犯罪者であり聖人でもあったダニエルは、まぎれもない「一つの人格」であり。立場次第で、誰もが、そのどちらにでもなり得ると言うところが興味深かったし、そういうことを際立たせたかった映画なんだろうなぁ、って思いました。
良かった。結構。