劇場公開日 2021年1月15日

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「この題名は誰のこと?人間?」聖なる犯罪者 バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5この題名は誰のこと?人間?

2021年2月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

とっても見たかった作品。楽しみにしていた甲斐がありました。

製作した国が近いからでしょうか?最近観た「異端の鳥」と似たような雰囲気があるんです。
テーマも、似たような「人間って・・・」って感じですし。
「異端の鳥」のようなモノクロ映像ではないですが、どんよりした薄暗い空の下でカラー作品を観ているかのような、まぁ、色が色をなしてない感じの映像が似ているなぁって感じました。
その雰囲気は人間っていう得体の知れない生き物の内面そのものなのかも知れません。
ちなみに、暴力描写ハンパないです。オープニングの工場のいじめシーン、めちゃくちゃ痛そうです。(よくもまぁこんな痛ぶり方を思いつくもんだと)苦手な方はご注意を。

本作は神父の仕事に憧れた罪を犯した男の出所後を描いてるものですが、
「犯罪者が聖職者の真似事をした」という単純な話ではないと思います。
事実、神父になりすまし村の信用を得た男はいたみたいですが(それが基になってるんですね)それを描くことでその裏にあるテーマを掘り下げているのではないでしょうか?

善悪とは何で決まるのか?決められるのか?
目に見えることが真実なのか?もしかしてそれに惑わされていないか?
多数派が生み出す静かなる暴力。
加害と被害は表裏一体。
結局人間は許せる(赦せる)のか?
などなどの人間という複雑怪奇な生き物をニセ神父のエピソードで浮き彫りにしていきます。

そもそも、人を欺いていながらも、小教区の村の司祭となる主人公ダニエルの存在自体が矛盾でありかつ、複雑な人間そのものです。また彼を取り巻く村自体が人間社会そのものとして描かれている点が非常に興味深いです。
ただの「ニセ神父によるエピソード」に終わらせることなく、村の中にあるタブーを通して人間の闇(前述のテーマですね)を描いていきます。その物語の作り方は見事でした。
また、ダニエルの心情の変化も丁寧に描かれていると思います。逃げるための手立てではなく、自身が神父としての存在意義を見出す瞬間があります。そこが見事です、セリフも含め。あぁ、彼は何かを見つけたなって思わせます。

犯罪者であり、刑期の中で触れた(であろう)キリスト教に魅せられたダニエルの言葉は、現実的でありかつ純粋なのでしょう。キリストの教えは泥水をすするように酷い刑務所生活の中での一筋の光だったのかも?生きた言葉ゆえにシンプルで本質をついています。彼の言葉は村人に届き、そして救いをもたらしたのかも知れません。
なんとなくですが、村全体に明かりが灯るかのようにクライマックスの映像は明るく、未来を予見できるような感じでした。(あくまで村のですが)

さて、そんなダニエルはどう裁かれるのか?どのような未来を迎えるのか?
ラストは、ラストに至るプロセスは・・・これまた本作のテーマに沿ったもので、かつ(考えすぎでしょうが)キリスト教の教えそのものと人間社会の現実って違うんだって痛烈に訴えている気がしました。戦争がなくならないのはなぜ?戦いがなくならないのはなぜ?教えはいったい何を教えてくれるんだ?現実ってこうですよ!って。

ひっくるめて現実の人間社会なんですよね。悲しいけど。

なお原題は「Boże Ciało」直訳で「神の体」日本語では「聖体」だそうです。
またネットで調べただけですが、原題は「聖体の祝日もしくは聖体節と呼ばれるカトリックの祝日」とも言われてます。この日は各地でprocesja(プロツェシア)とよばれる行列があるそうです。
村でのエピソードのクライマックスのシーンはこれを想像させます。
だからこの題名なのかなぁ?
キリスト教に詳しければさらに興味深い作品かもしれません。

ポーランド映画、初めてみましたが素晴らしかったです。
難を言えば、ダニエルがキリスト教に魅せられていく過程を詳しく知りたかったなぁ。

バリカタ