「罪を犯した者の存在の浄化、猜疑心の深さを示す作品です。」聖なる犯罪者 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
罪を犯した者の存在の浄化、猜疑心の深さを示す作品です。
刺激的な感じで興味があって観賞しました。
コロナ禍で映画館もレイトショーは中止。なかなか厳しい状況ですが観賞した「ヒューマントラストシネマ有楽町」は結構な客入りです。
で感想はと言うと、まあまあw
R18+で刺激的なタイトル。ポスタービジュアルも何処かミステリアスで内容もゾクゾクする感じのバイオレンス&ミステリアスな感じで考えてましたが、思ったほどバイオレンスでは無かったかな。
主人公のダニエルは司祭になる事を夢見ているが前科持ちは聖職に就けない為、少年院仮釈放後は製材所で働くがどうにも司祭への夢が諦めきれない。
ふと立ち寄った教会で自身を司祭と偽った事から、代理司祭を頼まれ、村で過去に起こった事件を掘り返す事で様々な事が動き始める…と言うのが大まかな流れ。
簡単には言うと成り済ましですが、そこにいろんな事件と苦悩が描かれてます。
前科持ちであっても聖職を希望すると言うのは別に悪い事でもないし、あってもおかしくないがなんかその違和感と言うか、ギャップが面白い。
「二代目はクリスチャン」「親分はイエス様」と言う暴力と宗教の組み合わせの作品もありますし、織田信長時代の比叡山延暦寺の僧侶はかなりの悪行をやっていたと聞きますが、どちらにしても宗教に暴力の組み合わせはなにかが起こりそうな異質感がありますよね。
ダニエルは改心したと言うよりは本心は変わらずとも、神に支えたいと言う気持ちで聖職者を希望し、また偽って司祭を名乗るが気持ちの偽りは無い。
ただ、司祭として振舞う村が色々とある感じ。
でもドス黒いかと言えば、そこまででは無い。割と田舎にありがちの臭い物に蓋をしたがる事件なので普遍的と言えば普遍的な村。
良い点は必要以上に脚色をしていない所ではあるけど、作品として難点があるとすると割と普通と言えば普通な村で普通な人達。何処か排他的なのは多分村社会では結構普通w
ダニエルも犯罪を犯しているが、少しハミ出し気味と言うぐらい。
その辺りがエンタメ色が薄い感じがしなくも無いかな。
また、この作品のラストが少し難しい。
少年院の同僚でダニエルの過去を知る男の出現により、司祭の夢を諦めたダニエルが少年院に再収監され、決闘し、勝利した所でエンド。
人は神に支えても変わらないとも取れるし、罪は輪廻するとも取れるだけに割とバッドエンドな感じ。
また、勝利した後にダニエルが出た扉の先が外の様な感じなので、現実か想像なのかが曖昧でこの辺りが個人的には分かり難くて、作品の感想が難しいんですよね。
全てを明らかにしなければいけない訳ではないんですが、犯罪者が聖職につくと言う時点で割と現実感が薄くて、何処か霧が掛かった様に曖昧な雰囲気が無きにしも非ずなイメージなので、実は全てダニエルの思い描いた幻想でした。みたいであってもなんか納得する様にも感じられる。
いろんな解釈をしても良いにしても、ちょっとこの辺りで評価が分かれる感じですかね。
ダニエルの苦悩も感じ取れるが、ダニエルが少年院に収監される容疑と言うか、どんな罪を犯したのかが分かるともう少し共感出来たかなと思います。
個人的に面白かったのは「トップガン」の挿入歌の「愛は吐息のように (Take My Breath Away)」が劇中に流れた所。
別に流れてもおかしくないんですが、ポーランド・フランスの作品でアメリカの80年代の映画の挿入歌が流れているのがなんかニヤッと来ます。
罪を犯した者を赦す事が神に支える者ではあるが、罪を犯した者を支える事は赦せない。
近くに置く事は寛容出来ない建前と本音に人の条理と不条理。猜疑心の緩やかに濃く描いています。
第92回アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされた実力派の作品で骨太な感じではありますが、面白かったと言うよりかは、ズッシリとした作品を観たって感じです。
正月明けの上映作品では本命に近い作品なので、ご興味があれば如何でしょうか。