映画 太陽の子 : 特集
すさまじい芝居を見た 柳楽優弥×有村架純×三浦春馬
映画好きによる、映画好きのための映画が誕生した――
「映画 太陽の子」は、太平洋戦争中の日本にも存在した“原爆研究”を背景に、時代に翻弄された若者たちの青春を描き出す。劇場公開日は8月6日。奇しくも、76回目の“広島原爆忌”を迎えるその日である。
主役を担うは柳楽優弥、そして有村架純、三浦春馬。彼らがスクリーンに刻んだ熱演を観れば、「芝居はここまで高みにゆくことができるのか」と驚嘆させられるだろう。
そんな怪物級の役者たちを、NHK大河ドラマ「青天を衝け」で話題を呼ぶほか、その人間的魅力で映画人やファンを虜にする黒崎博監督が演出。キャスト、スタッフ陣が全身全霊を込めた「映画 太陽の子」は、映画ファンを唸らせるべく劇場で手ぐすねを引いて待っている。
この特集では、キャスト3人の芝居について、黒崎監督の“伝説”について、さらに物語の魅力について詳細に語っていく。
芝居でここまで表現できるのか…最高純度の名演を
目撃したとき、あなたの価値観が変わる――
まずはキャスト3人についてご紹介しよう。
●柳楽優弥:実験に青春のすべてを捧げる兄・石村修…次第に狂気にじむその相貌を見逃すな
是枝裕和監督作「誰も知らない」(2004)で、第57回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞(日本人初かつ史上最年少)した“早熟の天才”は、30歳を迎える今、日本を代表する実力派へとなった。本作では、この言葉が嘘偽りないことを存分に思い知ることができるだろう。
本作で演じたのは、原子物理学を志す京都帝国大学の学生・科学者で、海軍からの密命“原爆開発”をすすめる研究チームのメンバーである石村修。情熱的に研究に没頭する「実験バカ」で、空襲警報が鳴り響き周囲が阿鼻叫喚となるなかでも、一心不乱に実験に打ち込んでいたことがある。一方でその研究がもたらすであろう“恐ろしい結果”を想像し、葛藤することになる。
劇中、自分たちが住む京都市内に原爆が落とされるとの噂を聞きつけ、修が教授へ“ある提案”を切り出すシーンがある。「比叡山に登って、その瞬間を見たいんです」。果たして真意とは――? 情熱と苦悩に切り刻まれ、狂気へと片足を突っ込んだ柳楽/修の形相を見逃さないでほしい。
●有村架純:終戦後の未来を見据える幼馴染・朝倉世津…自然とこぼれ落ちた最高純度の名演
NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)の好演で注目を集め、近年は「花束みたいな恋をした」「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」(20)などで一段も二段も上の階層へと進んだ感がある有村架純。修と裕之の幼なじみであり、2人から密かな想いを寄せられる朝倉世津を演じる。
空襲被害を避ける“建物疎開”で家を取り壊され、祖父とともに幼なじみ・修の家に居候することになる。「戦争が終わったら教師になる」と宣言し、未来を見据えて強く生きる世津。「女性は国のために家庭を守る」ことが美徳とされていた時代で、自身の意思をはっきりと示す彼女は珍しい存在だった。
物語はこの世津やそのほかの登場人物の言葉を借りて、戦争の無意味さと人の営みの尊さを明らかにしていく。世津は修と裕之の手を取り、3人の願いが叶うことを祈る。縁側での美しいワンシーンだが、この“手を取る”行動は、有村のアドリブだったそうだ。自然とこぼれ落ちた最高純度の名演を、堪能してもらいたい。
●三浦春馬:戦地で心に傷を負った弟・裕之…傑出した存在感、必見の波打ち際
「永遠の0」(13)で第38回日本アカデミー賞優秀助演男優賞に輝き、映画・TV・舞台などで傑出した演技力と稀有な存在感を見せてきた三浦春馬。修の弟であり、陸軍の下士官として戦地へ赴いた石村裕之に扮している。
出兵していた裕之だが、肺の療養のため一時帰郷する。以前と変わらぬ竹を割ったような快活さを見せ、修や母親(田中裕子)を安堵させるが、戦地での話はただの一度も口にはしなかった。
前線での壮絶な戦いは、脳裏から離れることはなかった。裕之がまるで取り憑かれたように海へと出かけ、波打ち際を越え、沖へ沖へと歩を進めていく場面がある。修と世津はそれを必死に留めるが……出演者、監督が口をそろえて「最も印象的で大切なシーン」と振り返る、“この一瞬”は必見だ。
●名演の連続に絶賛の声「感動を覚えた」「最高のパフォーマンス」
柳楽、三浦、有村の名演に、当然、映画人たちも共鳴のコメントを寄せている。ごく一部だが、抜粋してご紹介しよう。
「観客は1945年の世界に引き込まれていき、歴史を体験することになります。今日の日本の若い方にぜひ見ていただきたい一作であります。俳優の皆さんの演技は各々大変魅力的で、特に柳楽優弥、有村架純、三浦春馬の演技に感動を覚えました。そして三浦春馬はこの作品でいつまでも私たちの心に残ることになるでしょう」――アミール・ナデリ(映画監督「CUT」「山(モンテ)」)
「柳楽優弥は緑色の光を放っている。彼のエネルギーが尽き果てないように」――深川栄洋 (映画監督「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」「神様のカルテ」シリーズ)
「〈日本のために〉〈世界のために〉と信じ、突き進んでいく者たちの純粋な眼差し。果たして、何が正しいのか。自分の在り方に苦悩する彼らの姿に、胸が締め付けられました。そんな中、世津のある台詞があたたかくて、涙が出ました。その言葉は、正しいと思いました」――前田弘二(映画監督「まともじゃないのは君も一緒」「婚前特急」)
監督・黒崎博を知ってるか?大河、朝ドラ手掛ける名匠
本当の魅力は“規格外の人柄”にあり…伝説エピソード
キャストの次は、黒崎監督について言及していく。1992年にNHKに入局以来、朝ドラ「どんど晴れ」「ひよっこ」など質の高いドラマを数多く演出し、現在は大河ドラマ「青天を衝け」を手掛ける名匠。その手腕は言わずもがな、なのでここでは彼の“こだわり”が強すぎて生まれた伝説的なエピソードをいくつか紹介しよう。
●ハリウッドのS級キャストスタッフにダメ出しの嵐
相手が誰であろうと、クリエイティブに一切の妥協なし。本作ではハリウッドの名バイプレイヤー、ピーター・ストーメア(「アルマゲドン」など)も声で出演しているが、彼のアフレコ時には臆することなく果敢にダメ出ししていた。
さらにアカデミー賞5部門ノミネート「愛を読むひと」で音楽を手がけたニコ・マーリー、「アリー スター誕生」でサウンドデザインを手がけたマット・ボウレスも参加しているが、彼らにもリテイクを重ねたという。
ハリウッドの一流にも物怖じせず、リテイクを要求しまくった理由はひとえに“最高の作品をつくるため”。粘りに粘って、クリエイターの本気中の本気を引き出していく黒崎監督の不思議な魅力に巻き込まれ、上記のスタッフ・キャスト陣も“より良いもの”を目指すようになったそう。
黒崎監督はこう振り返る。「何度も『もう1回、もう1回』とリテイクするので、だんだん『どうなってるんだ』という空気になりました(苦笑)。でも繰り返していくうちに、彼らも火がついて、逆にアイデアを出してくれたり、良いテイクがどんどん出てきました」。
●とりあえず現場に乗り込む
撮影許可がおりるかおりないか、ギリギリのところだがひとまず撮影現場入り、なんてことも朝飯前。不許可だったらどうするんだ……と思わなくもないが、ギリギリのところでなんとかするのが黒崎イズム。
ピーター・ストーメアについても、出演を熱望したがどうにもスケジュールがとれそうにない。しかしロサンゼルス滞在中、粘りまくった黒崎監督は「明日、トロントでだったら会える」と聞きつけ、即・飛行機で移動しトロントで収録を行ったという。行動力が本当に鬼。
●でも、むちゃくちゃ謙虚
こだわりの塊のような監督。だが、作品の仕上げ作業が行われたロサンゼルスでは、現地スタッフの声に常に耳を傾け、本編にはその意見を多く反映している。例えば終盤、修がおにぎりを食べるシーン。ワンカット長回し、寄り引きなしという大胆なシークエンスにさまざまな意見があったが、ハリウッドのスタッフに背中を押されこの形になったという。
また大河ドラマで超多忙ななかでも、隙あらば試写に足を運び、自ら前説をするなどして本作を売り込む。上映が終わったあとは、試写室の技師さんに丁寧に挨拶をして帰ったりもする。
ハリウッドの一流×日本の一流=高品質な一作が誕生!
もう一つの魅力は“物語” 静かに涙こぼれる夏がきた
最後に、物語の力強さに言及して、この特集を締めくくろう。ほかの作品とは違う要素、それは日本における“原爆研究”という知られざる歴史にフォーカスしている点だ。
●あらすじ:日本で“原爆開発”に挑んだ人々がいた――
1945年の夏。軍の密命を受けた京都帝国大学・物理学研究室の若き科学者・石村修(柳楽優弥)と研究員たちは、原子核爆弾の研究開発を進めていた。
そんななか、建物疎開で家を失った幼なじみの朝倉世津(有村架純)が、修の家に居候することになる。さらに修の弟・裕之(三浦春馬)が戦地から一時帰郷し、3人は久しぶりの再会を喜ぶ。
しかし、物理学がもたらす破壊の恐ろしさに苦悩する修。戦地で深い心の傷を負った裕之。世津はそんな2人を力強く包み込みながら、戦争が終わった後の世界を見据えていた。
日本や自分たちの未来のため開発を急ぐ修と研究チーム。運命の8月6日が訪れる。日本中が絶望に打ちひしがれるなか、修が見出した新たな光とは――。
●ハリウッドの一流を惹きつけたのは、物語の力強さだった
本作は黒崎監督が10年以上前に手にとった“ある手記”が基になっている。広島県の図書館の片隅で若き科学者の日記の断片を見つけ、映像化を思い描いた。
仕事の合間に各地で人を訪ねてまわり、膨大な資料を集めた。そして2015年、産み落とされた渾身のシナリオはサンダンス・インスティテュート/NHK賞を受賞し、瞬く間に世を駆け巡っていった。
ところがこのシナリオは、日本で映像化するにはあまりに壮大かつセンシティブすぎた。黒崎監督とプロデューサーの土屋勝裕、浜野高宏は、海外との共同製作に乗り出すべく、ロサンゼルスを拠点とする映画製作者コウ・モリとタッグを組み、プロジェクトを発足させたのだ。
シナリオの力強さに、日本の一流たちのみならず、ハリウッドの一流たちも共鳴した。音楽には「愛を読むひと」のニコ・マーリー、サウンドデザインに「アイアンマン2」「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」「アリー スター誕生」など錚々たる作品を手掛けてきたマット・ボウレスが参加。日本からは福山雅治が主題歌を担い、日米の一流たちが最高品質の一本を創出しようと心血を注いでいった。
壮大なスケールと圧倒的なクオリティのビッグプロジェクト「映画 太陽の子」が、ついに映画館で公開される。静かな、しかし熱い涙がこぼれる夏がやってきた――。