「戦争と科学の狭間で狂気を加速させる男を描いた一作。」映画 太陽の子 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争と科学の狭間で狂気を加速させる男を描いた一作。
最終盤を除いてほぼ戦闘や破壊を描くことなくアジア太平洋戦争を描いた本作。当時京都帝国大学で実際に行われていた原子爆弾開発研究を題材としています。國村隼扮する荒勝教授は実在の人物ですが、柳楽優弥扮する石村修など、登場人物の大多数は架空の設定です(ただしテレビドラマ、映画版共に監督・脚本を務めた黒崎博が発見した、荒川研究室の学生達の日記に基づいて作られた物語であるため、モデルとなった人物は存在します)。
主人公の修は朴訥とした風貌で周りの人々を和ませるような人物ですが、学友から「実験バカ」と揶揄されるほど、科学に没頭して周囲が見えなくなってしまう傾向があります。その狂気は目の光りに宿るだけでなく、ついに終盤に至って、常人には理解しがたいような行動に結びつくわけですが(修の母親が「常人」として彼に対峙する)、このあたり明らかに、『風立ちぬ』(2013)や『アルキメデスの大戦』(2019)の主人公達に共通したものがあります。有村架純扮する修の幼なじみ世津は、現代的な理想語らせるだけなら上滑りしそうなところ、所作も台詞も、当時を生きた女性として観て何の違和感もない素晴らしい演技でした(彼女の合わせ鏡のような人物として、『この世界の片隅に』のすずを見ることも可能でしょう)。そして本作の快活さと苦しみを宿した裕之役を好演した三浦春馬。彼の姿をスクリーンで見る度に思うことですが、本当に惜しい方を亡くしたと思います。
ウランの遠心分離という、非常に専門的で素人にはにわかに理解しがたい実験を扱っていますが、要点を絞り、イメージ映像も織り交ぜつつ実験の目指すイメージだけでも分かりやすく想像させてくれる演出は非常に良かったです。核分裂と主人公の精神の分水嶺が一体化していたことも、明瞭な絵として伝わってきました。