「人生の一本と言える最高傑作」ハッピー・オールド・イヤー yookieさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の一本と言える最高傑作
この映画は、私にとって、人生の一本と言えるくらい大切な映画になってしまった。
しかし、もう一度観たいかと言われたら、今はまだいい、と答えてしまうだろう…。
そのくらい、心を掻き乱されるような、トラウマ級に刻みこまれた作品となった。
ものすごくリアルで、でもやはり究極のファンタジーのように、淡々と語られる人間模様。
ジーンを演じるチュティモンさんの演技が本当に素晴らしかった。ジーンはいつも同じ服を着て、ほとんど真顔で、ミニマルを体現している人物だが、その感情を露わにしない表情や色のないモノトーンの服装をした主人公は、まるでテネットの名もなき男のように作用し、観ている者が彼女に自身を投影できるようになっているのだ。私はいとも簡単に、ジーンに憑依するように、感情移入してしまっていた。
彼女が家中を断捨離するために片付けをしながら、少しずつ過去と向き合っていく様を観て、私自身の心の奥底に封印していた思い出と向き合わざるを得なかった。彼女が捨てきれないモノが、余りにも自分のそれとリンクしてしまい、苦しいとさえ感じた。元カレの家のインターホンを押すの…押さないの…のシーンや、ピアノの椅子に座って恐る恐る電話をかけるシーンは、目を背けたくなるような、まるでホラー映画のような場面だった。
ピアノを勝手に捨てたことに怒る母親の甲高い怒声を遮るようにヘッドホンのノイズキャンセルをONにして不貞寝するシーンには、苦々しくもありながら、安堵し、共感してしまう自分がいた。
最善の判断…それは結局、自分にとっての最善であり、他人にとっては最悪の判断かもしれない。
でもそうやって人は生きていくしかない。誰も傷つけずに生きるなんて出来ない。過去を掘り起こして、あの時の行動は最善だったのだろうかと考えても、起こってしまったことを帳消しになんてできないし、前に進む最善の材料にはならないのだと思う。。
最後に、理想通りミニマルに改装された家を眺めている彼女の表情には、不要だと考える物質は捨てることができたけれども、決して捨て去ることのできない過去をまた心の奥底に抱えて生きていく決意が現れているような、清々しく微笑んでいるようでもあった。いや、そうあって欲しい。
元カレのパソコンの中に保存してあった昔のジーンのように、鮮やかな色がプリントされたTシャツを着て楽しそうに笑っている・・・そんな日がまた彼女に訪れて欲しい。
止めどなく流れる涙に、しばらく劇場の席を立つことができなかった。パンフレットを買おうとするも涙の止まらない私に、売店のスタッフの方が「大丈夫ですか?そんなに感動してもらえて良かったです。」と声をかけてくれた。
一年の終わりに、このような作品に出会えて良かったと思う。