「ウクライナからの避難民に是非見てもらいたいとても暖かい素敵な映画」ヒトラーに盗られたうさぎ Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ウクライナからの避難民に是非見てもらいたいとても暖かい素敵な映画
カロリーヌ・リンク監督(アカデミー外国語映画賞受賞のドイツ人)による2919年製作のドイツ映画。原作はジュディス・カー(ユダヤ人でドイツ生まれの英国人絵本作家兼イラストレーター)の自伝的小説。
ナチスが政権を担う選挙直前に、ドイツ・ベルリンを脱出するユダヤ人中産階級家族の物語。父親はナチスに批判的な演劇批評家らしいが、このタイミングで、殆ど着の身着の儘で、
家財と家政婦を残して、ドイツを脱出するのは、凄い決断力と思った。9歳の主人公少女も持っていけた縫いぐるみは、沢山ある中で唯1つだけで、お気に入りのうさぎの縫いぐるみも置いていくことに。
この映画のために1000人ものスカウトから選ばれたスイス生まれの新人らしいが、主人公を演ずるリーヴァ・クリマロフスキの全身で示す演技や表情が何とも可愛らしく、素晴らしかった。そして男の子に負けずに元気一杯で、綺麗な横転もやってのける。多分監督の演出も的確なのだろう。
家族は最初は、スイスの郊外へ行く。ドイツ語圏なのだが、方言の違い、更に男女の明確な区分け等文化の違いに、主人公リーヴァは大いに戸惑う。男の子達にもいじめられる。可愛く気になる存在だかららしいのだが。ただ、とても仲良しのお友達(ハナー・カンピヒラー)もできた。この娘が主人公と対象的に少しおっとりとしたタイプだが、また可愛らしい。
スイスにはすっかり馴染んだものの、父親が仕事が見つけられず、家族は今度はパリに行くことになる。家も、お風呂・トイレは共同で前よりずっと狭くなる。少女の視点と重なるパリの街並みの映像がとても素敵だ。そして、さっぱり分からないフランス語と10歳となったリーヴァーは公立学校で格闘することになる。父親は仕事は見つかったが、収入は少なく、家賃は滞納、子ども達も噴水の投げコインを一生懸命に攫う。
母子3名は、父がさんざん貶した演出家(ドイツから亡命も富裕)の家に招待される。豪華な食事に美味しそうなお菓子、沢山の衣服や本(困窮者への寄付予定だった)のお土産までいただき、母も演出家妻とピアノ連弾(ブラームスのハンガリー舞曲)が楽しめ、父親は物貰いかと怒ったが、3人は大満足。環境に素早く適応する、妻および子供たちの逞しさを感じさせた。また、ラテン語は必須と考える、仏に来たからには関心はナポレオン、そして即興でピアノ連弾ができるというユダヤ中産階級の文化的な豊かさも、感じさせられた。
フランス語に最初は苦戦のリーヴァも作文コンテストで優勝し賞金ゲット、兄もクラスで成績は1番。父親も、英国で脚本が認められ、今度は家族で英国に渡ることとなる。さっぱり分からない英語であるが、主人公にはすぐにわかるようになるとの自信ができていた。母親もどんなチーズが食べられるか楽しみと言う。父親の様々な場所に住めることは良いことという前向きな首尾一貫とした楽観論がなんとも頼もしかった。
時節柄、ウクライナから国外に逃れてる多くの母子のことが思い浮かぶ。言葉や文化の違いに戸惑うだろうが、寧ろ可能性が広がるかもしれない。そういった意味で、ウクライナ避難民の子供たち親たちに是非見て欲しい映画と思った。困難に思える異国での生活体験は、実は潜在的才能を引き出す英才教育なのかもしれない。
製作はヨヘン・ラウベ ファビアン・マウバッフ、原作はジュディス・カーの自伝的小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」、脚本はカロリーヌ・リンク アナ・ブリュッゲマン。
撮影はベラ・ハルベン、編集はパトリシア・ロメル、音楽はフォルカー・ベルテルマン。
出演は、リーヴァ・クリマロフスキ(娘)、オリヴァー・マスッチ(父、「帰ってきたヒトラー」でヒトラー役)、カーラ・ジュリ(母)、マリヌス・ホーマン(兄)、ユストゥス・フォン・ドーナニー(叔父)、ハナー・カンピヒラー(お友達)。