「トラを迎えた家族の本当の強さ」ヒトラーに盗られたうさぎ shironさんの映画レビュー(感想・評価)
トラを迎えた家族の本当の強さ
絵画にしても文学にしても、受け止める側が自由に解釈して良いと思っています。
でも、時代背景や作者の境遇を知ることで、更に理解が深まる事も確か。
この映画を観たことで、絵本『おちゃのじかんにきたとら』のラストに秘められた、しなやかな強さを感じることができました。
子供は大人が思うほど幼くはない。
大人の気持ちを考えて言葉を飲みこんだり、大人の喜ぶよう騙されているフリをしたり。
世の中の曲がったしがらみが無いぶん、むしろ物事の本質を見抜いていたりする。
帰る家の無い者にとっては、家族が居場所である事を誰よりも理解していて、
思いの詰まった場所に別れを告げてまわるアンナの姿がいじらしいです。
いつかは帰れると指折り数えていたアンナが過去を捨てるシーンは、急いで大人にならざるを得ない瞬間を垣間見た気がしました。
そんなアンナの逃亡生活ですが、アンナだけではなく家族一人一人のプライドや信念、価値観の変化が描かれていました。
家族は亡命した先々で、“食べ物”“言葉”“しきたり(男尊女卑含む)”など、異なる文化に出会います。
現代の日本では、比較的いろんな国の食べ物を口にする機会があるで、いろんな種類のチーズにも免疫があるし、スイスのチーズなんてたまらなく美味しそうに見えますが(*゚▽゚*)
確かに慣れていないと臭いを先に感じて美味しいとは思えないかも?
食べ慣れない人に納豆を出すようなもの??
あと、ドイツのユダヤ人は、クリスマスをお祝いすると知って驚きました。
てっきりドイツの中のユダヤ人は、ゴリゴリ宗教色を前面に出して、キッパリ文化が分かれているのかと思っていたので。
「ユダヤ人を母とする者、またはユダヤ教徒」を“ユダヤ人”と定義するらしいのですが…私なんかだと、その国で生まれて、その国の食べ物を食べて、その国の言葉を話し、その国のしきたりに合わせた生活をしていれば、その国の人だと言えるのではなかろうか?なんて、つい軽々しく思ってしまいますけど…日本なんて無節操にいろんな宗教のイベントで盛り上がってますしね。(^◇^;)
でも、双方にとって「ドイツ人のユダヤ教信者」が存在しないところに、歴史の根深さを感じました。
文化の違いを受け入れることで、自らが変わっていけることに気づき、自信をつけた家族は、新天地に“不安”ではなく“希望”を見出します。
亡命の時、母国に後悔を残せば「逃げ」だけれど、異なる国の文化を受け入れる心があれば、逃げではなく「チャレンジ」になる。
努力して積み上げてきたモノを捨て去る強さと、未知の世界を楽しめる強さ…
ある日、お茶の時間に礼儀正しい虎がやってきて、自分達の食べ物を全て差し出すことになっても
なくした物をいつまでも嘆いたり、取り戻す為に戦うのではなく、発想を転換してレストランへ向かおう♪
行ったことがないレストランでは何が待っているかわからないけれども、違いを受け入れる気持ちがあれば、特別な冒険になる。
そして。映画の中で、父親が見下していた家庭のお茶の時間におよばれするシーンでも『おちゃのじかんにきたとら』が頭をよぎりました。
さすがにアンナ達はご馳走を全て食べきりはしないものの、物語の中で虎を単純に悪者として描いていないところに、誰しもがいろんな立場になる事があるのを知っている、作者の視線の深さを感じました。
追記:『帰ってきたヒトラー』でヒトラーを演じたオリバー・マスッチが、ヒトラーから逃亡する役なのも面白いです。(^-^)