「赤ん坊からしてみれば」ベイビー・ブローカー 落ち穂さんの映画レビュー(感想・評価)
赤ん坊からしてみれば
望まれて生まれてきたわけでもなく、父親は反社、母親はその愛人の売春婦で父親を殺した張本人。
父親の本妻は自分を血眼になって捜し、その件で死人も出ている。
また、死産した実子の代わりに育てたいと言ってきた善良そうな夫婦を逮捕し前科持ちにした刑事自身が、一番可愛い盛りの時期だけ自分を養育。
物心ついたときには、このクソッタレな事実を全て知るだろう。子供は馬鹿じゃない。
母親も、生まれてきてくれてありがとうだ???
ただただひたすらの地獄の環境に産み落とし、よくもそんな台詞が吐けるな?
母親も父親も父親の本妻も刑事も皆憎い。
2つの殺人事件の原因は自分、死産夫婦が前科持ちになった原因も自分。自分も憎い。
………と、赤ん坊が未来に犯罪者になる暗い第二作目が出来そうな話でした。
疑似家族メンバーと母親との心の交流の描き方は繊細で良かったです。こちらだけの話にしてくれたほうが、もっと心に染みたと思います。
とはいえ、ずっと、刑事の不可解な行動が気になっていました。
その答えが、ラスト付近で判明します。
見たこともないような柔らかな表情で刑事が幼気な子を遊ばせている海辺のシーン。
つまり、そもそも赤ちゃんポストに入れた刑事の真の狙いは、ブローカー逮捕という手柄のためなんかではなく、引き取り手である夫婦と実母双方を逮捕することで、彼らから合法的に子供を奪い取り、自分が母親ごっこすることだったのです。
しかも、まるで善人のように、赤ん坊の母親宛てに手紙を書くという図々しさも加わって、元々この刑事に良い印象がなかったところ、最悪まで落ち込みました。
そもそも母親から赤ん坊を委託されたのも驚きだったのですが、そう仕向けるのは簡単だったでしょう。
お陰で、ラストシーンで嬉しそうに集合場所に駆けていく母親の姿が、騙された哀れな人にしか見えませんでした。