「優しそうに聞こえても、これは犯罪者のセリフです」ベイビー・ブローカー @花/王様のねこさんの映画レビュー(感想・評価)
優しそうに聞こえても、これは犯罪者のセリフです
ACJAPANの動物愛護CMのキャッチコピーです。
韓国では2009年に赤ちゃんポストがソウル市に設置され、初年度は0人。翌年は4人。2019年までに1800人を超える赤ん坊が預けられている。
2012年に施行された改正養子縁組特例法により、実親の出生届の提出が義務化。
家庭裁判所が許可した家庭にのみ法的な金銭的支援が受けられる仕組みとなった。
韓国では2021年まで堕胎罪があったため、未婚の母は経済的に子どもを育てる環境がない。
政府も暗黙の了解で非合法の養子縁組を見逃してきた背景がある。
2021年まで堕胎は罪に問われていた。2021年に国際家族計画連盟が女性の権利を歓迎し、女性と医師のみ罪に問われてきた堕胎罪が無効化された。
映画を鑑賞後に、韓国の制度について調べたら驚きの連続で言葉を失った。
作中、まるでペットのように扱われる赤ん坊。
平然と普通の家庭の夫婦が赤ん坊の売買に名乗りを挙げ、しかもSNSなどを介して簡単に手渡してしまう。
フィクションの世界の話でしょ。と思っていたら、本当に行われている政府黙認の行為だったことに驚いた。
赤ちゃんポストを設置してから13年経った韓国。
赤ちゃんポストがあるから救われた命もある。
赤ちゃんポストがあるから手放された関係もある。
現状を調べるきっかけになった。
ストーリーとしては赤ん坊の売買を通して、それに関する人間模様が描かれる。
曇りなき眼で、赤ん坊の売買を正当化するサンヒョン。
自分も養護施設育ちで母親からの連絡を待ち続けているドンス。
養護施設育ちでは、将来的な職業の種類にも制限が掛かることを身をもって体感しているドンスだからこそ、ブローカーの片棒を担いでいる。
ソヨンが2人をブローカーだと知り、我が子の里親探しに利用する訳だが、最初から啖呵は切るし文句は言うし横柄な態度をとっている。
それに対して、もう取引もやめだ。1人でもう一度赤ん坊を赤ちゃんポストにでも入れろよ。と言わない2人。
警察も赤ん坊の売買ではなくて、母親が再び赤ん坊を赤ちゃんポストに入れると言う選択肢を与えなかったな。
あと、尾行する車の距離感が近すぎて笑った。
距離感がバグってるよ。
映画が始まって数分間は母親と赤ん坊だけの閉じた世界で起きた話だったのに、映画の終盤になると他人を巻き込んだ開けた世界になっていくから結末はどうであれ、救われた気分になる。
映画の終盤に感動泣け泣けポイントがあるが、私はその言葉で感動することはできなかった。
あれは末期の言葉だと思っている。
自分ができることを精一杯やった最後に、相手に贈ることが相応しい言葉だと思っている。
なので、まだ生きていて欲しいし、関係を諦めてほしくないと思ってしまって泣けなかった。
他人と繋がりを持つことでしか、人間は生きられない。
自分が属するコミュニティのルールに従って生きるしかない。
問題意識を持たなければ、生き易い環境は整備されていかない。
映画を通して、観る側に疑問を投げかける社会派の映画だったと思う。
是非、映画館でご覧ください。