劇場公開日 2021年4月3日

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「ドマを噛むと体が暖まるんだ」ブータン 山の教室 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ドマを噛むと体が暖まるんだ

2021年5月10日
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鑑賞方法:映画館

しみじみと、この素朴な映画に心も暖かくなりました。
帰宅して、興奮冷めやらぬままレビュー
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「ふるさとの山に向かひて言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな」啄木

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東京の岩波ホールと時を同じうしての上映。ここ長野県の小さな街でこんなに早くの上映が叶ったのは、支配人の熱意が通じてのこと。快挙!
(だいたい新作映画のフイルムが流れてくるのは半年遅れで、レンタル店にDVDが並んでしまうのが一緒なので、悔し涙)。

わが街 長野県塩尻市は、ブータンの首都ティンプーと人口は一緒。10万人です。
毎朝・毎夕、1年365日、荘厳な北アルプスの連山を、すぐ左手上空に見上げながら暮らす街。
だから山の民の映画は、どうしても僕らは親しく感じてしまいますね。

上映まえ、「この映画は若い監督が、変わりゆくふるさとブータンに心を痛めて撮ったのだ」という館主の解説をもらいました。

「先生は未来に触れることができる」
「先生を尊敬しなさい」。
地元の都会では落ちこぼれだったインターン教師のウゲンを、まるで天からの使者のように迎える全村民。

学校教育を重んじる辺境の村。そこには電気も電話もインターネットも無いのです。

登山道だけが唯一の交通路。徒歩6日の距離で 現代文明から隔絶されたルナナの村は、これはいったい“幸福”なのだろうか?それとも“不幸”なのだろうか?
・・鑑賞者の胸にはこの思いが一様に去来したはずです。

ブータン人ウゲン君のヨレヨレのTシャツには
《幸福度世界一国民》を恥じて揶揄するロゴが。

でも、かけがえのないヤク(=飼い主にとっては親友のヤク)を、村民のため、そして(ここ重要=)ウゲンのための“取って置きの歓迎”に提供する、そんな身を裂かれる運命も耐えて享受をする山の民は、ウゲンの離任の気持ちをも又 静かに受容するんですね。(※注)

無知ゆえの愚かな幸福感とはどこか違う、悟りと気高さを感じました。

(※注)ブータンでは殺生は禁じられています。魚でさえインドからの輸入とのこと。
だからウゲンは自分のために供された食材が何であるか分からないし、法を犯したもてなしを村長たちは穏やかに目配せをして、木の椀に盛り付けたわけです。

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押し寄せる西洋“文明”に、ネイティブが破壊されていく映画を観ると、僕が必ず思い出す映画が「ミッション」(1986.英)です、
⇒アマゾンのジャングルの奥地で、裸族の子供たちに“完璧なラテン語の聖歌”を歌わせるシーン。本国から視察にきたカトリックの聖職者は、そのバーバリアンに施された訓練と布教の成果にいたく満足して、密林の民に祝福を与える ―というシーンでした。

あれほどグロテスクな侵略の描写は、他に例をみないと思っています。=アンダーライン

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山や海で隔絶されて「井の中の蛙」であることの好運って、もしかしたらあったんじゃないかな?
日本人が英語が上手に喋れないこととか、外国に行けないとことか、島国根性であることとか・・おおよそ感化されにくい国民性であること、これって見下されるべきこととは必ずしも言えないのではないかな?

グローバル化で、固有の文化はますます混淆し、情報は膨大にして急流。これについて行けない者は「情弱」と蔑まれ、最早幸福やら不幸やらを考える暇さえ消え去って・・
我々は得られるものと失うものが拮抗する、誕生と喪失のはざまの時代にあるのだということを思い巡らしながら、終演後 夜の帰途につきました。

ブータンのジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク王は、つい先ごろ自ら、絶対王政から立憲王政へと国の体制を大きく転換させました。王様ご自身が「国民の成長と幸福の何たるか」をきっと苦悩し模索しておられるのだなぁと感じたニュースです。

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学校ものでオススメは
「すれ違いのダイヤリーズ」
「小さな園の大きな奇跡」
「あの子を探して」など。
子供の命を大切に守りたいと思わされます。

鑑賞後、そんなこんなで、いろいろ考え込んでもしまったけれど「ブータン、山の教室」、このチラシを壁に貼って明日からも元気に生きようと思う。
学級委員のぺムザムちゃんの笑顔、最高なんです、
村長の歌も、いまだ胸にこだまするんです。

きりん
2023年7月25日

良き映画と出会えたことは、山奥の村に赴任した先生、ウゲンと同じ思いがしました✨

美紅
2023年7月25日

長野県にお住まいなのですね。石川啄木の短歌になぞらえたレビューは、美しい自然と未来に触れています。私もスクリーンで観たかった映画でしたが、配信にて観ました。

美紅
2023年7月25日

共感とコメントありがとうございました☆

美紅
琥珀糖さんのコメント
2023年5月20日

コメントそして共感ありがとうございます。

ヤクの肉・・・でしたか?干し肉のようにも見えましたね。
私はきりんさんのように感受性が豊かでないので、良いレビューは書けませんが、ウゲンくんの戸惑いもひしひしと伝わって来ました。
せめて湯沸かし器のお湯はほしいです。

「レジェンド&バタフライ」にも、共感ありがとうございます♪
とても分かりやすくて楽しめました。

琥珀糖
琥珀糖さんのコメント
2023年5月18日

こんにちは

「ブータン山の教室」の紹介ありがとうございました。
いい映画でした。
「幸福」について考えさせられました。
それにしても、きりんさんのレビューが素晴らしくて、
ブータンにお詳しいですね。ドマのこと・・・友だちが、
寒い時に噛むといいよってくれたんですね。

村長さんがもてなしてくれたのは、乾燥した魚か?乾燥肉でしょうか?
お椀にはそんな意味があったんですね。

この秘境の村の映画を観る。
映画鑑賞の醍醐味ですね。

琥珀糖
pipiさんのコメント
2021年7月4日

そもそも「知恵の実」こそがエデンの園からアダムとエヴァが追放されたきっかけですものねw

インド・スイス・中東など、ブータン以外で育った監督だからこそ「ブータンの良さ」が、よりはっきりと見えるのでしょうね。
田舎・都会を問わず「その場に留まったまま伝聞情報だけで憶測している事」と「今いる場所から飛び出した上で見えてくる事」には雲泥の差があると思います。

「教育」の目的が「大学受験」や「教育課程をこなす為」だけから脱却し、自由度の高いものになったなら、また違ってくるのでしょうけれど・・・。

「最終学歴」で評価される世の中を変えないと、教育システムも変わるのは困難ですね。

私が近年気になっているのは、2008年文科省発表の「留学生30万人計画」に悪質な留学斡旋ビジネスがはびこり、ブータンの向学心溢れる青少年達を日本国内で「借金返済の地獄の日々」に陥れている事です。

ブータンは親日的な人が多いのに、このままでは日本への信頼自体を失ってしまう。真剣に考えねばならない案件だと思っています。

pipi
りあのさんのコメント
2021年5月29日

きりんさん
モンゴルへ行ったのは15年位前だったかな?
まだ白鵬が大関にもなってない頃で、たまたまウランバートルから白鵬のお父さんが泊まったパオを訪ねてきていて一緒に馬乳酒を飲んだのが思い出です。
長野にお住いだそうで、私も山登りが好きなのでコロナ前はよく長野に行ってました。八ヶ岳や燕岳などで新年を迎えた事もあります。
コロナが終息したらまた山に行きたいです。

りあの
もりのいぶきさんのコメント
2021年5月20日

きりんさん、コメントありがとうございます。

私も遠くから山並みを眺めるのが好きで
学生の頃に2回ほど、長野県に行きました。

松本市のアルプス公園(…確かこんな名前の公園)まで行って
素晴らしい景観に浸っていたら
突然の夕立 ひぇ~

高原で体験する雷雨
その凄まじい迫力にびびりまくったことを
今でも覚えています。

山をなめたら阿寒です。

もりのいぶき
NOBUさんのコメント
2021年5月15日

今晩は
 えーっと、このコメントは直ぐに消えますよね・・。
 当方の家人は、聡明且つ明朗な女性で、一時期会社でも、”NOBUの家は奥さんがしっかりしているから、持っている・・”と良く言われました。
 結婚後も、結構キツイ登山を継続し、春夏冬の長い休みにも殆ど家におらず好き勝手を遣っていた私に対し、西遊記の孫悟空に対する菩薩様のような対応をしてくれた女性です。
 それ故にか、自分の価値観をキッチリ持っており、夫婦共同で行動することは、子供が大きくなった今日では、ほぼありません。
 けれど、出来るだけ夕食時は一緒にお酒を飲みながら、世間のよしなしごとを話していますよ。
 彼女に見捨てられないようにしています・・。
 男は、幾ら虚勢を張っていても、女性には敵いません・・。
 私のレビューが、若干フェミニスト的な文章になるのは、彼女の献身的な姿を見ているからです・・。
 では。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年5月15日

今晩は
 恥ずかしながらブータンのワクチン接種率の件は、きりんさんに教えて頂くまで知りませんでした。イスラエルの高さは認知していましたが、残念ながら、今や大変な事になっていますね。
 ブータン国王が来日された事は良く覚えていますが、先見の明がどこぞの国より遥かに高いのでしょうね。
 プライベートな事に言及してしまいますが、長野塩尻の方なのですね。私は30代中盤までアルプス登山をしていたので、懐かしいです。
 今でも年に2回は、長野にある会社に行っていますよ。
 長野県って、文化都市で、長野市にある長野松竹相生座・長野ロキシーや千石劇所には数度、足を運びました。
 アルプスの山脈に雪が積もっている風景が見える街は、良いですねえ。

NOBU
きりんさんのコメント
2021年5月15日

ブータン、成人9割超にワクチン接種 首相の指導力奏功

日経新聞

2021年4月30日 19:18

【ムンバイ=花田亮輔】ブータンが新型コロナウイルスのワクチン接種で成果をあげている。これまでに成人の9割以上が1回のワクチン接種を受けた。人口が比較的少ないことに加え、政府の積極的な対応が迅速な接種につながったと評価されている。

ブータン政府によると、4月29日までにワクチン接種を受けた人の数は48万330人で、約77万人の人口のうち6割以上にあたる。成人では9割以上が接種を受けており、こうした接種の大半が3月27日の接種開始から4月上旬までの2週間で実施された。

米ジョンズ・ホプキンス大によると、ブータンにおける新型コロナの累計感染者数は1000人超で、1日あたりの新規感染者も足元では30人未満で推移している。隣国のインドで連日30万人を超える世界最悪のペースで拡大しているのとは対照的だ。

インドのメディアはブータンでワクチン接種が進んだ要因について「事態が深刻になる前のワクチン接種の重要性を理解していた政治指導者によるところが大きい」と指摘している。医師としても知られるブータンのロテ・ツェリン首相の指示により、同国内の約1200カ所で接種所が設置された。道路での輸送が難しい山間部には当局がヘリコプターなどでワクチンを届けたとけたという。

ディチェン・ワングモ保健相は「国王はすべての対象者が安全に接種を受けた後にワクチンの接種を受ける考えだ」との声明を出し、国民や地域社会だけでなく国王を守るためにも接種を受けるよう呼びかけていた。

きりん
NOBUさんのコメント
2021年5月12日

今晩は
 この作品、ずっと観たくて本日、イロイロ画策して、漸く観れました・・。(観客4人でしたが・・)
 ペム・ザムさん(ちゃん?)の弾ける笑顔を代表とするブータンの僻地の村ルナナの人々の自然な、人としての深い情、自然に対する畏敬の念を抱く姿・・。
 本当の幸せって何だろう・・、と思いながら時折目から出る水を拭きながら、鑑賞しました。
 幸せな2時間を過ごすことが出来ました。心が浄化されました。
 今日は今作を観るためにイロイロ画策したので、朝4時から仕事をしましたが、後悔全くなしです。
 今から、パンフレットを読んで、再び余韻に浸ります。
 こういう作品に出合えるので、映画を観るのは止められませんね・・。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年5月12日

今晩は
 今作、漸く観れました・・。
 今、深い余韻に浸っていますよ・・。
 良かったなあ・・。

NOBU
きりんさんのコメント
2021年5月10日

「ドマ」の入手は↓

【第九回 日本でも買える!禁煙国ブータンの嗜好品ドマ。(女性にも人気のココナッツやかっちかちの乾燥チーズもね)】
・・で検索を。

「ドマ」はビンロウの木の果実に石灰をまぶして胡椒の葉で包んだ嗜好品。
教師ウゲンが黒板のチョークの原料にしたのはこのドマの石灰だと思われます。

きりん