「青山真治が監督でよかった」空に住む パブローさんの映画レビュー(感想・評価)
青山真治が監督でよかった
確かに、エキセントリックな関係性も事件性も殺人もない映画だ。ただ、これが商業的な要請だけに応えた納品映画だと思うなら、それは違うと思う。
エキセントリックな事柄は起きないまでも、全員どこかネジが飛んでいて、犯罪や詐欺ギリギリ手前に踏みとどまった振舞ばかりじゃないか。
それでいて親近感や既視感が発生しない人物はひとりもいない様相だ。人間がどれだけ危ういバランスで、時には狂気に委ねながら、日常を生き抜いているのが、見ていてビリビリと伝わってくる。
ヤベー考えや行動していたやつが、次のシーンでとても愛らしい信頼できる表情や真剣な考えや態度を露わにしている。どっちも嘘ではない姿として。
これ、毎日生きていてマジでよく見る光景じゃないか?自分だってやってしまってないか?そんなクソな様子を人に晒して首尾一貫しない人生を、死ぬ時まで生き残り続けなきゃならないんだ。
そうした「生き抜く・生き残り続ける」様子は、九州サーガ3部作も含め、見ていて痛いほど、これまで監督が見せてきた人間の軌跡だと思う。
今回の作品が俺はいちばんそれを濃厚に感じた。撮るに足らないように見える事件しか起こらないから、なおさら身近にね。
テーマだけじゃない、遮蔽物がないタワマンならではの空の冷たく美しい光とヒロインが勤める出版社の日の匂いがしてきそうな光の対比、どこまで続くのかハラハラする長回しの緊張感に繊細に対応するカメラワーク、寸断し挿入される音響・編集の効果。
監督もスタッフもキャストも、創造に対して何ひとつ手を緩めてはいない。
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