劇場公開日 2020年11月6日 PROMOTION

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ビューティフルドリーマー : 特集

2020年11月2日更新

“映画を作る”喜びに満ちた、映画好きに贈る一作
物語は(サマタイ+幕が上がる)÷2 見どころを解説

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またもや良質な日本映画がやってきました。美術大学の映画研究会を舞台にした「ビューティフルドリーマー」が、11月6日から公開されます。

監督を務めるのは、「踊る大捜査線」シリーズや「サマータイムマシン・ブルース」(略して「サマタイ」)、「幕が上がる」などで知られるヒットメーカー・本広克行。さらに原案は、「機動警察パトレイバー」「攻殻機動隊」シリーズなどの世界的巨匠・押井守が手がけています。

本作、映画ファンの皆様に特にオススメの一本です。というのも、この作品には「映画を作る喜び」が満ち満ちていて、見ればきっと“映画がもっと好き”になるからです。

この特集では、見どころをはじめ、「サマータイムマシン・ブルース」で人生が変わった編集者によるレビュー、そしておまけの“事前に見ておくと楽しい作品リスト”を紹介していきます。

それでは、まずは予告編からどうぞ~。


【予告編】映画研究会、伝説に挑む。 作品を映像でチェック!

【良作がきた】「サマタイ」本広克行×巨匠・押井守!
“映画を撮る”喜びにあふれた、爽やかな青春譚

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[作品概要]監督・本広克行、原案・押井守 “攻める”Cinema Labの第一弾作品

メガホンをとったのは、日本の実写映画歴代興収1位「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(約173億円)などを手掛けた名匠・本広監督。そして、クエンティン・タランティーノらに影響を与えた押井が、原案として本作の骨格を作り上げました。(ちなみに本広監督が押井のことを「最も好きなクリエイター」と敬愛しているのは有名な話)

また本作は、映画実験レーベル「Cinema Lab(シネマラボ)」の第一弾作品。このレーベル、かつて日本映画界に多大な影響を与えた「日本アート・シアター・ギルド」(通称ATG)に着想を得て発足し、「監督絶対主義」を信条としています。つまり、世間の流行や風潮などお構いなし、監督が撮りたいものを撮る“攻めたレーベル”なんです。

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[物語]舞台は美大の映画研究会 学生が“いわくつきの台本”の映像化に挑む

次に、物語をご紹介。メインは美大生たちが映画をつくる青春譚ですが、根底には“映画を撮る喜び”が脈々と流れています。往年の名作たちへのオマージュ、知的好奇心をくすぐる“夢”“時間”“空間”についての問いなどが交錯する、映画ファンにはたまらない一作なんです。

舞台は、先勝美術大学。文化祭に向けにぎわう大学構内とは裏腹に、映画研究会の部室だけは、グダグダとした時間が流れていた。

そんななか、部員のサラ(小川紗良)は「教室の片隅に何かある」という不思議な夢を見る。翌日、夢に見た場所を探してみると、古いダンボール箱を発見。そして箱の中に入っていたのは、古い脚本と演出ノート、そして1本の16ミリフィルムだった。

そこにふらりと、OBのタクミ先輩(斎藤工)が現れる。「これは撮ろうとすると必ず何か恐ろしいことが起こる、いわくつきの映画だ」。そう告げられたサラだが「これ、私たちでやってみない?」とヤル気に。撮影を始めるが、次々に予期せぬ困難やトラブルに見舞われてしまう……。

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[見どころ]雰囲気は(「サマタイ」+「幕が上がる」)÷2 アドリブのみの芝居が輝き放つ

本作、本広監督による「サマータイムマシン・ブルース」(以下、「サマタイ」)と「幕が上がる」を含めた“青春映画3部作”と位置づけられています。物語に浸かってみるとよくわかるんですが、本作の雰囲気を一言でいえば「サマタイ」と「幕が上がる」を足して2で割った感じ。詳しくは後述のレビューでお伝えします。

また登場人物の会話劇が、映画やお芝居とは到底思えないくらい“自然”なのも目を引きます。例えば、こんな会話。

映研メンバー「(呪われていると言われたので)お祓いとかしたほうがよくないですか?」

「塩かけたりする?」

「台本に塩かける?」

タクミ先輩「え、塩かけないよ。台本に味ついちゃうでしょ」

あまりに心地いい掛け合いが、ず~~~っと繰り広げられるんです。演出方法が気になるところですが、本広監督は実験的レーベルの第一作ということもあってか、“口立て”というかなりユニークな手法を採用していました。

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口立ては、通常の手法なら間違いなく用意される“完全な脚本”を、あえて用意しません。俳優は事前に何も知らされず、撮影当日の現場でおおよその筋(例えば「3人の女性が恋について語り合う」とか)を口頭で打ち合わせ、即興の芝居で収録していきます。難しい演出法ですが、そのぶん、演技の豊かさの“上振れ”が期待できます(もちろん下振れの危険もあります)。

つまり本作、演技はほぼすべてがアドリブです。メインキャストは今後を嘱望される若い面々ですが、おそらくハチャメチャに苦しんだことでしょう。その甲斐あって、芝居の豊かさには目をみはるばかり。見る者を虜にする会話の応酬が、スクリーンに刻み込まれているのです。


【レビュー】「サマタイ」で人生変わった編集者が鑑賞
「まさにこういうのが見たかったんだよ俺は…!!」

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と、ここまで書いてきた筆者は、映画.comの編集部員です。映画業界に身を置く人は、大体が「いつかは映画の仕事がしたい」と強い影響を受けた作品があるもの。僕にとってそれは、高校3年生時にDVDで鑑賞した本広監督作「サマータイムマシン・ブルース」でした。

とある大学の不真面目なSF研究会に、突然、本物のタイムマシンがやってきた……。主にSF研メンバーの悪ノリで構成されたゆるいコメディが展開する一方で、その背後には美しいまでの伏線回収が並走。邦画におけるタイムマシンものの傑作として、非常に人気の高い一作です。原作である「ヨーロッパ企画」による舞台も好きです。

「人が映画を見る理由」は、不安が癒やされるだとか、誰かの人生を疑似体験できるだとか、いろいろあると思います。僕は「サマタイ」を初めて見たときの、感情が笑いと驚きの間で揺さぶられ続けて生じたあのアドレナリン、あのカタルシスをまた味わいたくて映画を見ている、そんなフシがあります。

大学に入りさまざまな映画を見るなかで、ごく自然に「いつかは映画に携わる仕事がしてみたい」と思うようになりました。その後いろいろあって映画.comに勤め、「亜人」公開時には本広監督&佐藤健&綾野剛のインタビューを担当し密かに感動するなどを経て、本作「ビューティフルドリーマー」(以下、「BD」)を鑑賞する機会を得たわけです。

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前置きが長くなりましたが、「BD」を鑑賞した僕を貫いたのは、「まさにこういうのが見たかったんだよ、俺はッ……!」という喜びでした。本作には、「サマタイ」を彷彿させる独特のコメディがありつつ、同作とは一味違う “映画をつくる喜び”がこめられていたんです。

「BD」の映画研究会は、実は映画を一度も撮ったことがないメンバーばかり。部室に集まっては特に何をするわけでもなくダベって帰る、そんな日々を送っています。「サマタイ」のSF研が、SFを研究することなく、なぜか草野球に打ち込んでいた姿と重なりますね。ずっと見ていられるくらい好きな、心地よい雰囲気です。

さらに本広監督の口立てによる演出が、癖になりそうなゆるい会話劇を生みます。「踊る大捜査線」などから続く“本広イズム”とも言えるユーモアは全開、今回も、観客をしっかり笑わせてくれます。コーヒーとか飲みながら見ていたら、危ない。

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しかし、モラトリアムを骨の髄までしゃぶっちゃおう的ないい加減さ(いい意味で)があった「サマタイ」とは異なり、「BD」のサラたちはやがて、「映画をつくる」という明確かつ非常に労力のかかる目標に向かっていきます。

オーディションで役者の熱演を直に見て圧倒されたり、キャストの頭数が足りないのでスタッフが出演を兼ねたり、納得いくまでテイクを重ねたシーンの仕上がりがやっぱり素晴らしかったり、戦車が登場する場面を撮るのに製作費が113円しか残ってなかったり。サラたちが脇目も振らず映画の完成に向かっていく情熱的な姿は、女子高生たちが演劇で全国大会を目指す姿を描いた「幕が上がる」と同じように、僕たち観客の心を突き動かすのです。

ところが、映画が完成に近づくにつれ「いわくつきの台本」に宿る“見えない力”が、映研メンバーに降りかかります。やがてサラたち映研の状況と、彼女らがつくる作品の物語がシンクロし始め、これは現実なのか、夢なのか? ドキュメンタリーなのか、ドラマなのか? “こちらの世界”と“あちらの世界”の境が融解していきます。

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本広監督の心躍るエンタテインメントに、押井作品の象徴とも言える迷宮的なモチーフが混交し、作品に複雑な味わいがじわじわと広がっていく――。かくして本作「BD」は、映画をつくる喜びで全編を貫きながら、夢うつつの浮遊感と、青春の爽やかな充足感を残してエンドロールに突入します。

その過程は、「サマタイ」を初めて見たときの、あのカタルシスを与えてくれました。もう大満足、僕は恍惚の気分でスクリーンを眺めていました。そして本作を鑑賞した人は、多分みんな、こんなことを思うんじゃないでしょうか。

本広監督、押井さん……こんなに素敵な“映画の世界”に引き込んだこと、責任とってね!

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【事前にこれを見ておこう】予習に推奨する作品リスト

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本作はいたるところに、過去の名作たちへのオマージュが散りばめられています。見る者の“映画IQ”が高ければ高いほど、「お、このセリフはあれだな」だとか楽しむことができるんです。

この項目では、特集のおまけとして、オマージュが捧げられた作品の一部をご紹介。これらを事前に鑑賞しておけば、本作をもっと楽しめるようになりますよ。


■「キャリー(1976)」(ブライアン・デ・パルマ監督)

超能力をもった少女キャリーが引き起こす惨劇を描いた青春ホラー。画面分割や、360度パンなどを用いた斬新な映像表現(いわゆるデ・パルマカット)が特徴的。「BD」の劇中では、サラたちがデ・パルマカットを模倣する場面がある。

■「七人の侍」(黒澤明監督)

世界中の映画人に多大な影響を与えた、説明不要の大傑作。「BD」では撮影が一息ついた映研メンバーが中打ちを実施し、鍋をつついている際に「この飯おろそかには食わんぞ」とつぶやく場面がある。「用心棒」ごっこもしていたりする。

■「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(押井守監督)

押井守の出世作であり、本広監督が「押井さんの追っかけ」になったきっかけの作品。この特集では特に触れなかったが、「BD」は「うる星やつら2」への愛情がひしひしと感じられる。

■「ニュー・シネマ・パラダイス」(ジュゼッペ・トルナトーレ監督)

映写技師の老人と少年の交流を、あふれる映画愛とともに描いた不朽の名作。「BD」では、古びた脚本とフィルムを見つけた映研メンバーが、映写機にフィルムをかける場面で言及する。

■「映画に愛をこめて アメリカの夜」(フランソワ・トリュフォー監督)

映画を愛する者たちに捧げた群像劇で、ある映画の撮影を行う人々の人間模様を描く。「BD」はこの作品へのオマージュが強い。ちなみに本広監督は、テレビ演出を手掛けていた1990年代に「アメリカの夜」という題の番組を制作している。映画の代表的な撮影技法を紹介する内容だった。

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