劇場公開日 2020年11月27日

アーニャは、きっと来る : 特集

2020年11月24日更新

一味違うナチス映画! 13歳の少年と村人たちによる
危険なユダヤ人救出作戦――実話を基にした奇跡の物語

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第二次世界大戦下のナチス・ドイツを題材に描く、いわゆる“ナチス映画”。このジャンルは毎年多くの作品が製作されており、大抵の場合、主人公はヒトラーをはじめとするナチス幹部や、ホロコーストで迫害されるユダヤ人や、それに近い扱いを受ける者だったりします。

そんななか11月27日から日本公開を迎える「アーニャは、きっと来る」は、“一味違うナチス映画”といえます。主人公はナチスでもなければユダヤ人でもない、小さな村で暮らす13歳の少年。どこの国にもいるこの普通の少年が、ユダヤ人を救出するため勇気を振り絞るのです。

主演はノア・シュナップ。Netflixドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」では、“裏側の世界”へ失踪してしまう少年ウィルに扮した注目俳優です。共演には日本でも人気の高い「レオン」のジャン・レノや、「タクシー運転手 約束は海を越えて」のトーマス・クレッチマン、「女と男の名誉」「アダムス・ファミリー」のアンジェリカ・ヒューストン。

実話を基にした胸が熱くなる“奇跡の物語”。この特集では、作品の魅力と注目ポイントをご紹介していきます。


【予告編】命がけで守ろうとした先に、少年が見たものは…?

【一味違うナチス映画】その3つの根拠は?
キーワードは主人公、物語、ナチス兵

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[根拠①]主人公は普通の少年 迫害されるでも、迫害するでもない“第三者”

舞台は1942年、ピレネー山脈の麓にある小さな村。生活の大半を羊飼いとして過ごす13歳の少年ジョーは、ある日、ユダヤ人の男性ベンジャミンと出会います。彼はユダヤ人の子どもたちを安全なスペインへ逃がす計画を企てており、ジョーはそれを手伝うことになります。

主人公は人々を煽動する独裁者(「ヒトラー 最期の12日間」など)でもなければ、戦地へ身を投じる兵士(「ハイドリヒを撃て!『ナチの野獣』暗殺作戦」など)でもなく、強制収容所に送られる人々(「ライフ・イズ・ビューティフル」「サウルの息子」など)でもありません。砲弾や戦闘機の音も聞こえない美しい村で暮らす、ごく普通の少年。つまりナチス映画における“第三者”なのです。

いわば“当事者ではない少年”を通じて描かれるのは、勇気を失わず、誰かのために行動することの大切さ。見ればきっと、勇気と感動がもらえる一作です。

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[根拠②]心温まる物語運び 村人が一致団結し、危険な救出作戦へ

ジョーとベンジャミンの救出作戦は、やがて一部の村人たちにも伝わっていきます。ここで特徴的なのは、危険なユダヤ人救出作戦に打ち込むジョーを、村の大人たちは頭ごなしに叱りとばしたり、外出禁止などで縛り付けたりしないところ。目の前の事実にきちんと向き合い、やがて彼らは一致団結して作戦へ加わっていくのです。

言ってみれば、村人たちには作戦に加わる義務はありません。野山を数人のユダヤ人を連れて歩いているのをナチスに見つかったら、どんなひどい目にあうか……ただの危ない橋です。しかし本作の村人たちは、ユダヤ人救出作戦に身を投じていきます。なぜ――? その理由にこそ、物語の核となるヒューマニズムが宿っています。

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ちなみにタイトルの「アーニャ」とは、ベンジャミンの娘の名です。彼は彼女をスペインに逃がすために計画を立てますが、物事は順調には進みません。肝心のアーニャが一向に村に現れず、その代わりにナチスがやってきて、村に駐留するようになります。

厳しい監視下に置かれながら、ユダヤ人の気配すら感じ取られてはならない救出作戦……その行方や、いかに。

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[根拠③]1人のナチス兵の存在 少年と擬似親子の絆を育んでいく――

ジョーの父親は現在は村におらず、ドイツの収容所で労働を強いられています。日々の寂寥感は募る一方のジョーは、ある日、ユダヤ人の子どもたちのために大量の食料を運んでいる最中、ナチスの下士官に呼び止められます。

「なぜそんなに必要なのか?」と怪しまれるジョー。まずい……と思いきやこの下士官、話してみると気さくで愛想がよく、なによりも好奇心旺盛。さらに寛大であり、とてもフェアな男でした。

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やがてジョーは下士官と交流を深めていきます。ハンマーで効率よく杭を打つ方法を教えてもらったり、自分の知らない生きる知恵を教えてくれたり、遥かな連峰を望みながら苦悩を打ち明けたり。

“父”を求めるジョーは下士官に父性を見出し、擬似親子の関係を築いていきます。

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ナチスの描かれ方も一味違う本作。少年と1人のナチス兵が心を通わせていく一方、ナチスは「ユダヤ人を匿っている」という秘密にだんだんと近づいて……。この二律背反のドラマが、作品にさらなる奥行きをもたらしていきます。


【見どころは…】原作、キャスト、舞台をチェック!
市井の人々の勇気が胸を打つ、イチオシの感動作

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[原作]「戦火の馬」の世界的作家が、奇跡の実話を小説化

この物語を生み出したのは、スティーブン・スピルバーグ監督により映画化された「戦火の馬」などで知られるイギリスの作家マイケル・モーパーゴ。「アーニャは、きっと来る」の原作小説は今年3月に日本でも発売されたので、書店で平積みになっているのを見た方も多いのではないでしょうか。

驚くべきは、この物語が“実話に基づいている”ということ。モーパーゴがたまたま訪れた村で「第二次世界大戦中に起こっていた出来事」を耳にします。取材を続け、やがて物語の力にのせ小説化。世界各国で反響を呼び映画化されることとなったのです。

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歴史的な偉人でも、人々を救う義務のある軍人や外交官でもない“自分の小さな半径を守るのに必死”だった市井の人々が、“ほかの誰かを救おう”と動いていた……。しかもそれは何もこの村だけでなく、当時のヨーロッパのいたるところで起こっていたのです(例えば「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」でも描かれていました)。

そんな事実は、人間の正義の力を示しているように思えてなりません。


[キャスト]主演は「ストレンジャー・シングス」ノア・シュナップ 共演に「レオン」ジャン・レノら

ここまで物語についてフォーカスしてきましたが、次はキャストにクローズアップ。注目の新星から日本でも知名度の高いベテランがそろい、上質な演技で作品に華を添えます。


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主演は「ストレンジャー・シングス」で世界的人気を獲得したノア・シュナップ。同作では、怪物に身体を乗っ取られてしまう鬼気迫るシーンで話題に。その演技力は折り紙付きで、本作ではピュアな羊飼いの少年を信じられないほどの透明感で演じています。今後さまざまな作品で目にする機会が増えるであろうシュナップ、改めて要注目です。


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さらに「レオン(1994)」のタイトルロールや、トヨタのCMシリーズ「実写版ドラえもん」などに出演したジャン・レノ(今年で72歳!)がジョーの祖父アンリ役に。いぶし銀の存在感を放ち、物語に愛情と静かな闘志を付与しています。


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また「女と男の名誉」で第58回アカデミー賞助演女優賞を受賞したアンジェリカ・ヒューストンが、ベンジャミンとともに救出作戦を主導する女性オルカーダ役。ほとんど怪演に近い熱演っぷりで、作品に活力と懐の深さを与えます。


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そしてナチスの下士官に扮したトーマス・クレッチマン(画像右)。故ロビン・ウィリアムズにどことなく似た、柔和な眼差しが印象的です。ジョーと下士官が絆を育む過程を見れば、心が温められ、体がまるで気球のように浮遊していくような気分が味わえます。


[舞台]あまりにも美しいピレネー山脈 映画館で癒やしの旅行気分を

新型コロナウイルスの感染拡大により、国外旅行へのハードルが上がってしまっている昨今。本作を鑑賞し、映画館で癒やしの旅行気分を味わいませんか?

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本作の風景描写はまさに圧巻の美しさ。ピレネー山脈を望む高原では羊たちがひしめき合い、まるで雲海のような光景が広がっています。その中心にはジョーが立っていて、棒で羊たちを追い立てています。

風がそよそよと吹き、彼のポンチョの裾をふわりと巻き上げる。そんな牧歌的なひとときを横目でとらえながら、カメラはゆったりと画面奥の岩壁へ。人の侵入を拒むかのような無愛想な岩肌がスクリーンを覆い尽くします。

するとカメラは一息に空高くへと上昇していきます。わっと視界が開けると、いく筋もの水が優雅に流れ落ちる滝、抜けるように高い青空、両翼を目いっぱいに広げて泳ぐように飛び回る鷲が、一気に目の前に飛び込んでくるのです。

そして遥か遠くには厚い雪がまばらに張り付く岩山が、すべてを見守るように悠然と鎮座しています。人々の営みと巨大な自然の造形とのコントラストが、胸の内をすすいでくれたような気がしてきます。

撮影はモーパーゴが「第二次世界大戦中に起こっていた出来事」を耳にしたその村で行われた、というから驚きです。そこに住む羊や村人たちも出演しており、現実とのリンクを通じて作品に無二のリアリティを付与しています。

特に心に残るのは、風光明媚な景観と胸が熱くなる展開が組み合わさったラストシーンです。鑑賞してしばらくたった今も、ありありと網膜に焼き付くほどの美しさ。本作は得も言われぬ心地よい余韻を残し、幕を下ろすのです。

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