劇場公開日 2021年3月26日

「石を拾う」ノマドランド t2law0131さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0石を拾う

2021年2月17日
iPhoneアプリから投稿

2020年・第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞を受賞し、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞した作品。
最初の70分はナレーションのないドキュメンタリーのよう。これもリアルなアメリカの姿だといわんばかりに、流浪の民を追っていく。思い思いのキャンピングカーで全米を放浪し、そこここでコミュニティがあり、互助しあっていく「社会」が形成されている。ドラマチックなことが何も起きず、ノマドたちのエピソードが主人公の周りで描かれていく。出会いと別れ、そして再会しまた別れを惜しむ。そんな日々に映画的な動きが残り40分で語られる。それはドラマの収束のために計算され、用意され、その線路をきちんとクライマックスまで進んでいく。観客はそのまま予測通りの(製作者の狙いどおりの)感情(気分)をもってストーリーを追い、こうあれかしと思う最終的な主人公の決断と余韻まで連れていかれる。トロントの観客は、このストーリーの<心地よさ>と、ナチュラルでエコロジカルで清貧な姿に心を鷲掴みされ、観客賞に一票入れたのだろう。
フランシス・マクドーマンドの演技は圧巻。前半は、ノマド密着ドキュメンタリーの取材対象になっている「素人」としか思えないほど、自然な存在感。しかしじっくり見ると、後半の展開へ向けての心理的な伏線のようなものも見える。このあたりは名人芸としか思えない。捨て去った?過去の遺物を大事に車内の家具にしていて、それを自慢するエピソード、喪失した「家」の残影を引きずっている思い入れで微妙にはにかむ表情の演技のくだりなど。

t2law