「驚くべき映像の力」国境の夜想曲 pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
驚くべき映像の力
ほとんど内容を知らないまま――ドキュメンタリーかそうでないのかさえ知らないまま――に本作を観にいったのですが、感銘を受けました。
僕は、基本的に映画はエンターテインメントであり、観客を楽しませてなんぼだ、と考えていますが、もちろんそうでない作品、つまり「何かを記録して伝える」といった意図のもとにつくられた作品も当然あっていいわけで、本作は後者に属するものです。
とにかく画(え)が美しい。
本当に美しいものには力強さがある。この作品の映像もそうです。
ただ表面を写しているのではなく、物事の本質(あるいは本質のようなもの)をとらえているから、これだけ気高く、力強く、美しいのだと僕は思います。
すべてのシーンが、すべてのカットが、まるで「マグナム・フォト」や「ナショナル ジオグラフィック」などの優れたフォトグラファーによって撮影された写真のようです。決まりすぎるほど、決まっている。
これほど素晴らしい映像によって綴られたドキュメンタリーを観たのは初めてかもしれない。こんな映画はちょっとないのではないか。
そして、強度と深度を持った本作の映像からは、異国の土地の空気が、その場のリアリティーが、実によく伝わってきます。
外国の街や村を彷徨ったことがある人ならそういう感じがよくわかるはずです。
空の面積を大きくとった構図が印象的でした。
大地に響きわたるアザーンや銃声。微かな水の音。鳥や虫やカエルの啼き声……。それらの音もまた観る者に何かを語りかけてきます。
静かに「国境の夜想曲」を聴くことができる人にとっては、この作品は大変興味ぶかい、意味のあるものになるでしょう。
もう一度、観たい。
