「理解から実践へ」ボヤンシー 眼差しの向こうに KZKさんの映画レビュー(感想・評価)
理解から実践へ
世の中には劣悪な環境の中生きているものはごまんといる。社会的問題になっている東南アジアの奴隷労働者たちももちろんその一部である。そんな東南アジアの奴隷労働者として働かされている14歳の少年の作品である。
貧しい家庭に生まれ育ち、家庭内で働くことも当たり前となっていた日常。そんな環境から逃げ出す事を決めた主人公の少年チャクラ。
当初は金銭が貰えて労働できると考えていたが、実際は金銭も貰えず十分な食料や睡眠も与えられず、地獄のような環境で奴隷労働させられる毎日を送ることになった。
逃げたものは目の前で無残に殺され、また主に海上にいる為逃げるという選択肢すら与えられない環境である。
そんな毎日を過ごしていくうちに周囲は精神的にそして肉体的に壊れ殺されている中でチャクラは強く逞しく育っていく。
ひどい仕打ちをした奴隷仲間を殺した事をきっかけに、奴隷として扱う3人の雇用主達を殺し自由を得て作品は終える。
犯罪者達を殺す事の可否はともかく、本来は経験しなくて済む事をしてまで自由を得るためにあらゆる事を経験して生きるチャクラの姿に強く心を打たれた。
セリフも少なくまさにノンフィクションに近いドキュメンタリーのような作品。その為早い段階で見入ってしまう。
この作品に没入すればするほど自分が幸せな環境で過ごしてきた事への感謝の気持ちと同時にこのような社会問題になにもできない無力さを感じ心が揺れ動かされる。
この問題は決してカンボジアをはじめとした東南アジアだけの問題ではない。法が整備された日本ですら外国人雇用を増やし、低賃金や長時間労働などをはじめとした違法労働などをさせて罰せられた企業もいくらか報道された事もある。発覚したのは一部でありどこまでそういういった状況が社会的に蔓延しているのかは未知数である。
もちろん違法労働、奴隷労働だけではない。弱者に対してその弱い立場を利用し更に追い詰めるような事案はいくらでもある。
こういう作品を観ていると弱者の気持ち、環境の一部を少しでも理解することに繋がる事ができる。
その理解から次は身近にいる弱い、弱っているものへの立場を時には助け、時には優しく接する事ができるきっかけに繋がるのではないか。
この作品を観て感じた事を大切にし、決して忘れる事なく優しい人間でありたいと強く思う。