「並行して流れる時間や存在を映し出す、心地のよい幽霊譚。」眠る虫 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
並行して流れる時間や存在を映し出す、心地のよい幽霊譚。
バスの中に鞄にネギを刺している人がいて気になった、と書かれている方がいたけれど、自分も気になった。日常で、近所のスーパーで、ふと見かけることのあるちょっとした違和感が画面から飛び込んできたからだ。そして、ああ、そういう映画なのか、と勝手に合点がいった瞬間だった。
説明を省いた曖昧なストーリーやキャラクターの行動動機は、正直観終わってもわからない。なんとなく感じ取ったものを「そんなものかな」と思うだけだ。しかし人生にそんな瞬間はいくらでもあって、むしろこの映画は、世界はそんなもんという事実を受け入れる映画なのだと思う。
バスに乗っているシーンは長いが、決して冗長ではない。不要なところは編集で切られていて、ただだらだら撮りっぱなしなわけじゃない。つまりそこには、監督が切り取りたい、見せたい、共有したい時間が流れているということなのだ。凡庸な車窓の風景、たまたま乗り合わせた人たちの仕草や会話、一瞬だけ生まれる繋がり、いろんな人生や時間が並行して流れていて、現実とあの世の境は最初から曖昧だ。登場人物たちはそれを、水が流れるようにサラサラと受け入れる。
なんと素敵な世界との向き合い方の映画ではないだろうか。
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