劇場公開日 2020年10月10日

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「あまりにも大胆な暗殺の裏に潜む途方もない闇に戦慄する力強いドキュメンタリー」わたしは金正男を殺してない よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0あまりにも大胆な暗殺の裏に潜む途方もない闇に戦慄する力強いドキュメンタリー

2020年10月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2017年のクアラルンプール国際空港で白昼堂々実行された金正男暗殺。実行犯はインドネシア人のシティとベトナム人のドアンという若い女性。顔面にVXを塗りつけて殺害するという大胆な手口、防犯カメラをしっかりと睨みつける仕草からプロの暗殺者かと思われたが実際の彼女らはそれぞれの国で貧しさから逃れてささやかな自由を夢見る普通の女の子だったという話。

事件当時日本にいなかったのでこの事件の概要をぼんやり知っていた程度でしたが、この2人の無実を立証すべく奮闘する弁護士と事件の裏側に潜む極めて政治的な意図を追うジャーナリスト達が丹念に積み上げていくエビデンスから浮かび上がってくるのは、信仰深く真面目な女性が巻き込まれる暗殺計画の途方もない狡猾さと北朝鮮と中国、ベトナム、マレーシア、インドネシアといった諸国間の外交バランスの危うさ。映像を通じて実行犯の2人に対して勝手に抱いていた印象が180度ひっくり返されて予想だにしなかった結末と後日譚が涙で滲みました。

とにかく驚かされるのは2人があまりにも無邪気なので犯行に至るまでと犯行後の映像や言動が防犯カメラだけでなくSNSにも大量にアップされていたこと。有名になりたい、お金を稼ぎたい、そんなありふれた願望があっさりと利用されていく過程がしっかりと残っているのが救いである一方で、他人事として事件を見ている自分達もいつ何時同じような目に遭うか判らないという距離感が定かでない恐怖が背筋を駆け抜けました。物凄く力強い力作です。

よね