「現実の”完全犯罪”とは、ここまで後味の悪いもの」わたしは金正男を殺してない donmai_honamataさんの映画レビュー(感想・評価)
現実の”完全犯罪”とは、ここまで後味の悪いもの
最初はお気楽に見ていた。
真偽は別として、田舎から出てきた少女たちが、いかにして彼の国の最高指導者の兄の殺人犯に仕立て上げられ、国際社会のトップニュースに躍り出たのか。
そして彼の国の工作員がいかにその実行に抜けがないよう、冷酷に作戦を練ってきたのか。
事実は小説より奇なりだなぁ、なんて思いながら、ボーンシリーズや007なら数分で終わるシーンの裏側を見るかのように、壮大なスパイ大作戦として見ていた。
その時までは、もちろん彼女たちの不遇に同情しつつも、あくまでスクリーンのこちら側の人だった。
ところが、
後半に彼女たちの顔に希望の光が差し込むにつれ、反対に猛烈な苦さを口の中に感じだす。
“完全犯罪だった”というフレーズが出てくるが、まさにあの当時ニュース映像を見ていた我々は、そしてスクリーンでこうして振り返っている我々は、
いつのまにか傍観者ではなく、白昼堂々の処刑の観客席に座らされていたことに気づく。
そしてまんまと筋書き通り、こんな日本に住む小市民ですら彼の国に対する恐怖の念を植え付けられ、国家間チキンレースの前に無力を感じさせられているのだ。
こうして彼の国は、ただのロケット好きなチンピラではないことを証明し(もっとずいぶん恐ろしい)、おかげで?各国の首脳とにこやかに会談し、今日も元気にいつのまにか増殖している軍事パレードを見せつけている。
少女が帰国した際に見せた、夢から覚めていない笑顔に全く救われず、そして悪人は誰もいなくなった、余計に苦さが残る余韻を味わう。
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