「音響の世界って凄い!これを観れば、映画の見方が変わる、かも?」ようこそ映画音響の世界へ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
音響の世界って凄い!これを観れば、映画の見方が変わる、かも?
映画音響にスポットを当て、その変遷から仕事の内容までを明らかにしてくれるドキュメンタリー。
出演は…
ジョージ・ルーカス…『アメリカン・グラフィティ』、『スター・ウォーズ』シリーズ。
スティーヴン・スピルバーグ…『インディ・ジョーンズ』シリーズ、『ジュラシック・パーク』シリーズ。
デヴィッド・リンチ…『エレファント・マン』、『マルホランド・ドライブ』。
アン・リー…『ブロークバック・マウンテン』『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』。
ライアン・クーグラー…『クリード チャンプを継ぐ男』『ブラックパンサー』。
ソフィア・コッポラ…『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(出演)、『マリー・アントワネット』。
クリストファー・ノーラン…『ダークナイト』トリロジー、『インセプション』。
ロバート・レッドフォード…『スティング』「MCU」シリーズ。
映画音響という、一般ピープルからすると「小豆で波の音作るんでしょ?」みたいな、フワッとした印象しかない業界のことを、その成り立ちからプロの流儀までかなり詳しく、しかも具体的な例を示しながら解き明かしてくれる、初心者にも易しい映画on映画。
本作は大きく分けて前半・後半の2つのセクションに分かれている。
前半はエジソンによる蓄音器の発明から現代に至るまで、映画の録音・編集の歴史を辿るといういうもの。
後半は、映画音響を成立させているそれぞれのお仕事の一つ一つにスポットを当て、その職務内容やプロの技を明らかにしていくというもの。
前半パートで興味深いのは、ウォルター・マーチやベン・バートという、映画音響の世界を変えた天才たちのエピソード。
公民権運動やベトナム戦争など、リアルがフィクションを超えてカオスになっていた1960年代。映画産業は完全に下火で、斜陽の時代を迎えていた。
そんな腑抜けた映画界に殴り込みをかけた、フランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカスの若きヒゲコンビ!
そんな彼らを音響面で支えたのが、ウォルター・マーチやベン・バートという音のスペシャリスト。彼らの音への執着ほとんど変態的。
『地獄の黙示録』での5.1chサラウンドや、『スター・ウォーズ』でのリアリティを追求した効果音など、革命的な手法で映画音響の世界に革命を起こしていく。
今まで当然のようにR2-D2やチューバッカの声を受け入れていたけど、それを創造した人物がいるんだもんなー。
当たり前のことなんだけど、めちゃくちゃ不思議な気分。
後半パートでは、映画音響を①「ライブ録音」②「ダイアログ編集(録音時の雑音を編集する)」③「ADR(アフレコ)」④「SFX(効果音)」⑤「フォーリー(足音や鎧の擦れる音など、効果音をカスタムメードする)」⑥「環境音」⑦「音楽」⑧「ミックスダウン(音の調整)」の8つに分別。
それぞれの仕事を実際に映画の場面を引用しながら、その道のプロたちが解説してくれる。
本作ではこの職人たちの連携を「サークル・オブ・タレント」と称していたが、この映画を観ればまさに映画音響とは多くの才能が一つの輪を描くような作業であることがよくわかる。
この映画を観るまでは映画の”音”といえばジョン・ウィリアムズやハンス・ジマー、久石譲などの作曲家のことばかり考えていたのだが、服のはためきや波の音、足音や動物の鳴き声、時には無音でさえ映画音響のピースであり、それはフルオーケストラのBGMと同じくらいに重要なものであるということを、この映画を観て学ぶことが出来た。
反響音や風の音が、千の言葉以上に雄弁に語るのが映画音響の世界。
「言葉とは音の表情。抑揚が意味を伝える。」という、ベン・バートの言葉は最高にプロフェッショナルである。
「仕事とは何か?働く意味とは?」という、普遍的な仕事論についても考えさせられる作品なので、映画音響に興味のない人でも鑑賞の価値はあると思う。
映画って奥深いなぁ〜。凄い才能と執念の世界だぁ…。