「“生けるレジェンド”の総出演! 映画マニアの知識欲をくすぐる」ようこそ映画音響の世界へ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
“生けるレジェンド”の総出演! 映画マニアの知識欲をくすぐる
「ようこそ映画音響の世界へ」(原題:Making Waves: The Art of Cinematic Sound)。
ホームシアター・ホームオーディオ愛好家が狂喜乱舞しそうなドキュメンタリーである。
ハリウッドが引っ張ってきた映画技術の根幹こそが、“オーディオ”であることを改めて認識することになる。逆に言うと“趣味としてのオーディオ”は“映画”の発展なしには語れない。
映画の発明から130年。エジソンのキネトスコープ(1890年)、リュミエール兄弟のシネマトグラフ(1895年)には、「音」がなかった。エジソンは自身の蓄音機(1877年)でそれを補完するロードマップを描いていた。エジソンの頭のなかには、現在の映画の姿があったといえる!
なにより本作は、映画マニアの知識欲をくすぐる。観終わると、“これ知ってる?”と嬉々として、映画ウンチクをひけらかすことができることウケアイ。
ジョージ・ルーカスの「THX-1138」を手掛けたアメリカン・ゾエトロープ社の倒産危機を救ったのは、「ゴッドファーザー」だったこと。ビートルズのマルチトラック録音が映画にも影響を与えたこと。冨田勲の4ch「惑星」からサラウンド映画へ発展していくことなどなど。
1927年の初トーキー映画「ジャズシンガー」から始まり、作品の映像をふんだんに使って、時系列で映画音響の進化を解説してくれるのが分かりやすい。
そして、“生けるレジェンド”の総出演である!まったくスキがない。「スター・ウォーズ」のベン・バート、「地獄の黙示録」のウォルター・マーチ、「ジュラシック・パーク」のゲイリー・ライドストロームが当時のクリエイティブ現場を熱く語る。
さらにジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグ、デビッド・リンチ、ジョン・ラセター、クリストファー・ノーラン、バーブラ・ストライサンド、アン・リー、ソフィア・コッポラ、アルフォンソ・キュアロン、ライアン・クーグラーへのインタビュー。それぞれの監督の代表作の映像が惜しげもなく大開放される。権利関係が複雑なハリウッド業界において、出来そうで出来ない奇跡的な映像コラボレーション作品に仕上がっている。
ひとことで“映画音響”といっても、サラウンドや特殊効果音だけではない。じつに多岐にわたる。
「Voice(セリフ)」。
「PRODUCTION RECORDING(同時録音)」。
「DIALOGUE EDITING(環境音さしかえ)」。
「ADR(アフレコ)」。
「SOUND EFFECTS(効果音)」。
「SFX(特殊効果音)」。
「FOLEY(フォーリー)」。
「AMBIENCE(環境音)」。
「MUSIC(音楽・劇伴)」。
それぞれの役割と製作方法を技術者が具体的に解説してくれる。すべてを理解できると、作品のスタッフエンドロールの読み方も変わってくるはず。
もうひとつ、ヒッチコックの映画術を解説した「ヒッチコック/トリュフォー」(2015)と並び、映画制作の道を志すものなら絶対に見るべき作品だ。映画の“基本のキ”である。当然、映画の専門学校の教材バイブルになるだろう。
監督のミッジ・コスティンは、本作が初の長編作品となるが、もともとハリウッドで25年も音響デザイナーとして活躍してきた“裏方のひと”。女性の音響編集者は珍しいが、USC映画芸術学校でも教鞭を振る彼女らしい内容に仕上がっている。
(2020/8/29/ヒューマントラストシネマ渋谷 Screen1/ビスタ/字幕:横井和子)