「やっと『夏への扉』の映画が観られて嬉しかった」夏への扉 キミのいる未来へ muffinさんの映画レビュー(感想・評価)
やっと『夏への扉』の映画が観られて嬉しかった
名作SF小説の初実写作ということだが、50年代のアメリカで書かれたこの物語を今の日本に置き換えたというこの作りはかなり見事なものだとしか思えない。たとえば、宗一郎(山崎賢人)の自宅兼DIYラボがまったくのアメリカンな佇まいであるのに、これが今の日本の物語の風景として成立するところなどは、やっぱり現代の物語としてのリアリティがあるなあと猫のピートくんの足跡を追いながらしみじみ感じ入ってしまった。
そういう意味で、この作品のAIやアンドロイドの設定と、日本という設定、そして時代と科学のレトロ設定の按配は完璧で、この物語を淀みなく綴っていく手法はとても心地よかったし、『夏への扉』の初映画化作品として素晴らしい。
物語を牽引する動機となる松下璃子(清原果耶)のキャスティングもずっぱまりだと感じたけれども、宗一郎と璃子との間のエピソードがなにかもっとあってもよかったと思う。たとえば、原作のリッキー(璃子に相当)が、キプリングの児童小説に登場するマングースにたとえて「リッキー・ティッキ・タヴィ」と呼ばれているような、璃子を際立たせる強烈なエピソードや宗一郎との絆を鮮やかに物語る要素がなにかもっとあったらよかったと思う。夏菜、田口トモロヲ、藤木直人らのキャスティングとキャラクターは申し分なかった。
それと、どうせなら、エンディング・クレジットであまりにも見事にこの物語を歌い上げてみせる山下達郎の1980年の名曲‘夏への扉'を使ってほしかったとも思う。