「【”行政は自閉症ケア施設の監査をする前にやることがあるだろう!”セイフティーネットワークの綻びに対する根本的な問題を明らかにするとともに、ASDの人々を献身的に支援する人々の姿に頭を垂れる。】」スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”行政は自閉症ケア施設の監査をする前にやることがあるだろう!”セイフティーネットワークの綻びに対する根本的な問題を明らかにするとともに、ASDの人々を献身的に支援する人々の姿に頭を垂れる。】
ーパリでASD(自閉症スペクトラム障害)支援施設を運営するブリュノ(ヴァンサン・カッセル:冷酷な殺し屋のイメージが強かったが、今作品でそのイメージは払拭)とマリク(レダ・カリブ)は毎日、朝晩ASDの若者たちが起こすトラブル対応で走り回る日々。-
・ジョゼフは頻繁に列車の非常ベルを押してしまうし、長く施設に幽閉されていたバレンティンは外部と上手く接することが出来ず、頭をイロイロなモノにぶつけるため、常にヘッドガードを装着している・・、など様々なASD症状を持つ青年たちと向き合う二人及び施設の支援員。
ーブリュノはキッパを頭に載せているから、ユダヤ教徒であろうし、マリクは自らアラブ系だと述べる。つまり、この支援施設の中心人物は純然たるフランス人ではない。又、遅刻が多く嫌々ながら支援員をしているディランは黒人だ・・。-
・何故、彼らはあそこまで献身的にASDの若者たちの面倒を見るのか・・。
序盤、ブリュノが言う言葉からヒントを貰う。”彼らがいるから、俺たちは救われる・・。”
ー深い言葉である。共依存ではないだろうし、彼らがいるから職があるという事でもないだろう。もっと崇高な考えの下、彼らは毎日働いているのだろう・・と解釈する。
彼らは決してASDの若者たちに上から目線で接しない・・。多少面倒ではあるが、一人の人間として接している姿。-
・ある日、ディランが目を離したすきにホテルの部屋からいなくなったヴァランタンを探すブリュノとマリクを始めとした支援員たちの懸命な姿が印象的だ。ヴァランタンの失踪前、彼の行動を知る彼らが、ホテルの部屋の突起物にごく自然に丁寧にカバーをかける姿も何だか沁みた。
ー高速道路での、あの救出行為は下手をしたら自らの命も危ない状況である。-
<ASDの若者たちが、ブリュノとマリクが運営する”正義の声””寄港”に身を寄せるまでの経緯は語られるだけだが,彼らがどのような扱いを受けてきたかが良く分かる。
だからこそ、杓子定規に施設の運営を監査する行政の男女に対して、ブリュノが預かっている一人一人の写真と彼らの症状の特長を叫ぶように叩きつけるシーンが心に響く。
そして、何より彼らとASDの若者達が徐々にではあるが、楽しそうに交流する姿と、二人の寛容な姿が観ている側にある感慨を齎すし、大きな問題提起を提示する作品にもなっているのである。
舞台はパリだが、決して他人事ではない問題でもある。>