「どこまで企まれた作品なのか気になる」スパイの妻 劇場版 くつむしさんの映画レビュー(感想・評価)
どこまで企まれた作品なのか気になる
黒沢清氏をホラーの名手としか認知してなかったので首長竜あたりで興味を失っていた。最近になって「岸辺の旅」「散歩する侵略者」と鑑賞して認識を改め本作。舞台もキャストも黒沢作品としては新鮮だった。たぶんイデオロギーや歴史認識は作劇上のギミックに用いた(不穏と恐怖の新たな舞台にちょうど良かった)に過ぎずメッセージ性はないと解釈してるので、そこに引っかかる人とは相性が悪い作品かと。ただ、そこも踏まえて当時8K限定とは言えNHKでというのは何やら企みめいた意図は感じる。イデオロギー色を逆手に取ったといおうか。作品を創るには制作費・環境と発信手段が必須なので。あくまでも個としての人間が、世界と虚実ないまぜなまま不確かに関係する様と独自の表現様式が創作の核にある監督で、思想に踏み込むスタイルの人ではないと思う。
劇中自主映画でアップで映し出される蒼井優が息を飲むほど美しかった。お見事です!
【追記によりネタバレ】
ロールスクリーン前での「お見事です‼️」はさすがに混乱してたと思う(嵌められたことを強調し錯乱して見せることを咄嗟に思いついた可能性も?)が、医師との面会では全て悟っていたように思う。夫は憲兵隊長の惚れた弱みと妻が本当に騙されていたことで、拷問や死刑は免れると踏んでいた。案の定狂ったフリと取り計らいがあったであろう病院暮らし。それでも海岸で号泣したのは、ずっと夫と一緒に生きることこそ彼女の望みだったのだから、哀しみの堰が切れたということだろうか。再会できたが否か言及されてないが、まあ鑑賞者の望みは概ね一致するだろう。いささか男に都合がよすぎるきらいがあるが、時代背景を踏まえればやむ無しか。観終わった後となっては果たして計画の動機すら本気であったかすら怪しい。食えない男だ。