「狂ってる戦争、狂ってない夫婦愛」スパイの妻 劇場版 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
狂ってる戦争、狂ってない夫婦愛
基はNHK-BSのTVドラマらしいが、画面サイズや色調を調整。
そうとは思えないくらい“お見事!”な映画に。
さすがもう一人のクロサワ、黒沢清。
ヴェネチア国際映画祭監督賞受賞。海外の名誉ある賞を受賞したのに、日本バカデミー監督賞にノミネートされていないという謎過ぎる謎…。
開戦間もない1940年の神戸。聡子は貿易会社を営む夫・優作と何不自由無い満ち足りた生活を送っていた。妻主演で自主映画を製作したり。(←これ、終盤で思わぬどんでん返しに!)
優作が仕事で満州へ。遅れて帰って来てから、夫の様子がどうもおかしい。
満州で何かあったのか…?
夫の会社で働き、共に満州に行った甥が突然会社を辞める。
夫が満州から一緒に連れ帰った女性。
夫が不倫…?
ある日聡子は、幼馴染みの憲兵・泰治に呼び出され、その女性が死んだ…いや、殺された事を知る。
夫は何かに関わっているのか…?
疑心暗鬼。そのシーンが黒沢印のホラー的な異様さすらあった。
夫や甥が憲兵にマーク。
居ても立ってもいられなくなった聡子は夫の秘密を調べ始める。
夫が満州で知った秘密とは…
日本軍による恐ろしい非人道的な人体実験。
ノートやフィルムなど国家機密級のその証拠を入手。
それを世界に伝えようとしていた…!
あの時代、そんな事をしたら、国家反逆の大罪。
捕まったら、徹底的な取り調べ、拷問、果ては…免れないだろう。
それでも優作はこの機密を世界に伝える道を選ぶ。国より人の命。人道派、平和主義者。
が、聡子は反対。何も国に傾倒している愛国者だからではない。夫にそんな危険な橋を渡って欲しくないだけ。国や人の命より、自分たちの幸せ。
夫婦は初めて対立…。
…しかし、密かにフィルムを見た聡子は考えを改める。
フィルムに収められていた“戦争”は、想像を遥かに超えていた。
夫はこの為に闘おうとしていたのだ。反逆者、スパイと呼ばれようとも。
ならば、私も。愛する夫と共に。“スパイの妻”と言われようとも。
この許されない大罪を世界に伝える。
夫婦の闘いと運命が始まる…。
伝える場として、アメリカを選ぶのだが…。
脚本は黒沢と、東京藝大時代から後輩に当たる濱口竜介と野原位。黒沢と濱口の新旧鬼才の初タッグだけでも豪華!
黒沢清初の歴史劇。ロケ地、美術、衣装、エキストラ、台詞回しまで全てにこだわり、1940年代の神戸を再現。8Kカメラによる映像も美しい。
映画音楽初担当の東京事変のギタリスト、長岡亮介による音楽も作品を流麗に奏でる。
麗しい奥方様から、愛する夫と共に波乱の道を選ぶ…。か弱さ、美しさの中に、凛とした芯の強さ。蒼井優のさすがの巧さ。
高橋一生が信念の為に静かな闘志を燃やす夫を、複雑な人間性と共に熱演。ミステリアスな雰囲気も味付け。
二人が戦争に翻弄される夫婦愛を見事に体現。
その対になるのが、東出昌大。
聡子の幼馴染みで憲兵の泰治。朗らかな笑顔の好青年だが、国家の敵は見逃さず、誰であろうと追い詰める。
酷不倫でイメージ急降下させたものの、かつての棒演技からなかなか演技力向上、個性派になりそう。
スパイ・サスペンス×歴史劇×夫婦愛。
3つの要素が巧みに交じった物語は面白味あり。
黒沢清作品でも特にエンタメ色高い。
でも、しっかりと“伝えられている”。
戦争の残酷さ、非情さ、恐ろしさ…。
夫婦の運命を変えたのも戦争。
泰治の性格も理性も変えたのも戦争。
何もかも狂っていた。
今では信じられないが、それが正しい事だった。
戦争万歳!軍国主義万歳!名誉の死万歳!
それから外れる事は、“狂ってる”。
知られてはまずい“本当の事”は徹底的に隠され、永遠に闇に葬られ…。
戦時下の日本は敗戦国や唯一の被爆国で悲劇的なイメージだが、決して惚けてはいけない。許されない大罪も数多いのだ。
日本だけではない。戦争という大罪の下、他の国々も。
闇に葬ろうとした大罪にも、必ず罰せられる光の矢が当たる。
“狂ってる”を大声で“狂ってる!”と言える、この“狂ってる”今の世に生まれて良かったとつくづく思った。
ラストはどんでん返し。
妻をも騙し、夫は端からそういう計画だったのでは…?
…いや、寧ろ、あれこそが非常に危険かもしれないが、妻に危害が及ばない最善の案。
機密伝達と、愛する妻の為に。
これも“狂ってる”ほどの愛のカタチ。
1945年、戦争は終わった。
聡子の元には悲報が届くが…
聡子はかの地へ赴く。
そこに愛が待っているからーーー。
共感ありがとうございます。
過酷な時代に翻弄される正義と夫婦愛の物語でしたが、
夫婦役の高橋一生と蒼井優の演技が見事でした。
強い絆で結ばれてはいるのですが、ストレートではなく、どこか謎めいた雰囲気があり、深みのある作品でした。
蒼井優は好きな女優ですが、演技力がスキルアップが凄いです。どんな役柄も熟してしまいますね。今後の飛躍が楽しみです。
追伸:
こちらのサイトの問い合わせ窓口に、以前、近大さんに御相談した
フォローしていないレビュアーさんの検索が大変なので、
こちらのサイトの登録者検索システムの作成をお願いしました。
前向きに検討してくれるとのことでした。
では、また共感作で。
-以上-