「【観るものも巻き込むゲーム】」スパイの妻 劇場版 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【観るものも巻き込むゲーム】
優作と聡子の会話の多い演出や、明るさが一定に抑えられている映像、戦争直前とはいえどこか整然とした街並みを見ると、舞台を観ているような感覚を覚える。
作品のモチーフとなった細菌部隊は、満州で活動した731部隊のことだ。
また、当時、ペストが新京や、近隣の街で、小規模だが実際に発生したという記録も残っている。
だが、物語にはスパイ活動や国家犯罪を暴くといったスリリングな場面は少なく、どちらかというと、戦争に向かう不穏な空気の中で翻弄される夫婦の心の揺れが描かれている。
それは、女と男の、妻と夫のゲームのようなものだ。
常に問われるのは、相手が自分を信じるのか、信じないのか。
この問いについては、通常は信じていないことが前提だ。
だから、信じるに足ると思われるにはどのようにしたらいいのか。
女と男は、お互いを信じるに足るように見せるため駆け引きを繰り返していく。
妻の疑念の背景には嫉妬がある。
夫にも嫉妬のようなものが見え隠れする。
妻が放つ矢は巧妙かつ大胆だ。
夫の信用を得るためには、身内でも利用するのだ。
スパイの妻はスパイそのものだ。
結末は…一見なるほどとも思うが、
意外なことに、実はエンドロール前のテロップが、僕達を惑わせる。
実は、騙されたのは、本当は国家であり、皆ではないのか。
二つほど場面を遡って思い出し、これは確信に変わる。
スパイの妻もスパイだ。
この2人は、実は2人で本懐を遂げたのではないのか。
観客も永遠に答えの出ない謎を突きつけられ、想いを巡らすしかないのだ。
この物語は、なかなか極上のエンターテイメントだ。
コメントする