劇場公開日 2021年8月13日

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「実在した風刺画家が体験した戦争の悲惨さをクロッキータッチで描き出した!!」ジュゼップ 戦場の画家 バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5実在した風刺画家が体験した戦争の悲惨さをクロッキータッチで描き出した!!

2021年8月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

独特のデザインで 1982年のイスラエル軍によるレバノン侵攻の中で起きた、サブラ・シャティーラの虐殺を描き、強烈な印象を残した『戦場でワルツを』を製作したセルジュ・ラルーが製作。

実在した画家にして、自分の戦争体験を描き残した戦場画家であり、風刺漫画家としても知られるジュゼップ・バルトリの物語を、クロッキー鉛筆画のタッチを強調した独特のアニメーションとして描き出す。

単純にデザイン的な観点からもおもしろい作品であるし、今年は『ベルヴィル・ランデブー』のリバイバル上映や『カラミティ』『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』などなど、多国の様々な特徴をもったアニメ映画が多く公開される。年々、そういった機会というのが増えている。

日本のアニメ産業もジャパニメーション、クールジャパンというブランドのように、世界に売り出していながら、その運営や現場の雇用体系は過酷なものが多く、結局は海外のアニメ製作会社に頼ったものが多くなっている。その結果、技術やセンスが他国にダダ漏れになっている気がしてならない。

アニメ産業は日本がトップだなんて、大きな態度でいられる時代は終わりつつあるのかもしれない…という話をしてしまうと、脱線してしまうので、それぐらいにしておこう。

美術をかじった人や学校で授業を受けたことがあれば、知っていると思うが、 今作で取り入れられている、 クロッキーというのは、素早く描くのが特徴ではある。簡単に言えば簡易デッサンといったところだろうか。

しかし、今作にはクロッキーではない、しっかりとした風刺画や1枚絵もいくつか印象的に映し出される。

つまり、その絵が生まれるきっかけとなった背景は、クロッキーのように描いて、それによって完成された絵は実物が映し出されるという仕組みになっていることで、メイキング的な側面もあるのだ。

ベトナム戦争の時代になると、多くのカメラやテレビカメラを持った戦場カメラノンが多く戦場に出向くようになり、死体だらけの悲惨な現状が、今の時代のコンプライアンス概念では考えられないぐらいに、普通に映し出されていたわけだが、それ以前というのは、カメラというのは、まだそれほど一般化していなかった。

あったとしてもプロパガンダとして使わることも多い中、リアルに体験した者の書き記された文章や今作のような絵は、その現状を知る手段のひとつとして、今も歴史的資料となっていることが多い。

風刺漫画というと、政治家や戦争をコミカルに描いていて、1800年代からすでにあったものであるが、近年の風刺画家は、例えば戦争であっても体験したというより、想像やテレビ、新聞、今であればウェブなどの情報を元に絵描かれることが圧倒的に多いが、ジュゼップの描く風刺画は正に自分の目で観て、体験したものが反映されているという点でも重みがかなり違っている。

普通のデッサンや一枚絵であれば、その描かれている被写体がどんな人物だったかを読み解くことは難しい。

しかし、風刺画という形態によって、その人物の人間性を浮き彫りにしているのだ。

クロッキーのソフトなタッチでありながら、そこに映し出される戦争の悲惨さというのは、決してソフトなものではない。

バフィー吉川(Buffys Movie)