「劇中劇『ゴドーを待ちながら』が服役囚の人生に侵食し、現実そのものがカーテンコールのない不条理劇であることが静かに語られる、鋭利なエスプリに貫かれたずっしり重い物語」アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
劇中劇『ゴドーを待ちながら』が服役囚の人生に侵食し、現実そのものがカーテンコールのない不条理劇であることが静かに語られる、鋭利なエスプリに貫かれたずっしり重い物語
服役囚に演技指導する場面は意外とあっさり流されているのに、個性豊かな服役囚達の自由すぎるユーモラスなキャラクターと主人公エチエンヌが抱える憔悴を描写することに大幅に尺が割かれている時点でありがちな結末にはならないなと予感していましたが実際その通りでした。劇中劇『ゴドーを待ちながら』が賞賛されて次々と公演依頼が舞い込む中でエチエンヌは自信を取り戻し、服役囚達も束の間の自由を謳歌するが、カーテンコールの後に残るのは今までと何も変わらない日常。そんな興奮と空しさが繰り返される中で彼らの人生そのものに『ゴドー〜』が侵食し、彼らがずっと待ち望んでいた物語がパリのオデオン座で大喝采とともに完成する。ありきたりではない結末が実際に起こった事実であることに驚きますが、それを知った『ゴドー〜』の作者、サミュエル・ベケットの一言に滲んだエスプリにニヤリとさせられます。
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