「移民問題から考えるフランスのリアル」GAGARINE ガガーリン リオさんの映画レビュー(感想・評価)
移民問題から考えるフランスのリアル
本作の主人公、ユーリは、宇宙飛行士「ガガーリン」の名を冠した実在の団地 「 ガガーリン団地 」 に住むアフリカ系移民2世(又は3世)と思われる。そして彼は、宇宙飛行士に憧れを持つ十代の若者。(「ユーリ」の由来はユーリイ・アレクセーエヴィチ・ガガーリンの名前からだろう。)
この映画の主題となっているのは、明らかにフランスの移民問題、特に移民2世、3世および不法移民などを含む若年層の問題だ。
戦後フランスは、日本と同様に 史上最大の経済成長期(1945年から75年までの栄光の30年)を経験し、安価で大量の労働力確保のため、積極的な移民受け入れ政策を行う。74年の第一次オイルショックを契機に、原則として大量移民の門戸を閉じたものの、現在ではその2世、3世、さらに不法移民が大きな社会問題となっている模様。
現在のフランスが抱える移民2世、3世、問題とは、まずは若年層の高い失業率と教育の問題、そして移民ジュニアに対する差別の問題、そして経済的な格差の問題。これらが、若年層が感じる「閉塞感」に繋がっており、本作でも隅々にその空気感が感じ取れた。
また、本作に出てくる「ガガーリン団地」は1960年に完成との設定。ちょうど、74年の転換期から15年ほど前より移民の受け入れを開始し、約60年の歴史を持つ建物。そこには、移民家族を含む社会的なコミュニティーが形成されていた。
老朽化が原因で、この「ガガーリン団地」の取り壊しが決定されるとことからストーリーが始まる。60年の歴史を持つ団地の取り壊しは、そこに築かれてきた(移民家族を含む)コミュニティーの断絶を意味しており、ふと福島原発問題で移住を迫られた人たちの問題が頭をよぎった。(移住そのものよりも、コミュニティーの断絶のほうがよりいっそう大きな問題だったと記憶している。)
本作の最後のシーンで、主人公のユーリがモールス信号で繰り返し伝えたかったメッセージは、そのまま現在のフランスにおける移民2世、3世の若年層の訴えを代弁していたように思う。
全体を通して社会問題を扱いつつも、「宇宙」をテーマにした斬新なアイディアと映像感覚、そして美的センスが随所に散りばめられていて印象的な作品だった。