旅立つ息子へ : 特集
愛する“自閉症の息子”との別れ 父が選んだのは、
“2人で逃げる”ことだった 逃避行の果て、彼らに
訪れる決断の時 爽やかな風が吹く感動作――
強い共感を覚え、涙がどうしようもなくあふれてくる。3月26日から公開される「旅立つ息子へ」は、まさにそんな感情になれる珠玉の感動作だ。
息子のために人生をささげる父親と、そんな父の愛情を一身に受ける自閉症の息子の“絆”を、実話をもとに描いた人間ドラマ。僕は一体、君に何をしてやれるだろう――? 父と子の逃避行を通じて描かれる美しき親子愛に、世界中が惜しみない賛辞を送っている。
この特集では、【物語】【レビュー】【著名人の感動の声】の3つにわけて、本作の魅力を紹介していく。
【物語】父・アハロン 自閉症の息子・ウリ
息子は施設へ 別れの直前、父は…「一緒に逃げよう」
○そばにいることが、一番の愛情だと思っていた―― 実話に基づく、爽やかな感動作
自閉症スペクトラムの息子ウリの世話をするため、売れっ子グラフィックデザイナーというキャリアを捨て、田舎町でのんびりと暮らしているアハロン。別居中の妻タマラは息子ウリの将来を心配し、全寮制の特別支援施設への入所を決める。
定収入がないアハロンは養育不適合と判断され、行政の決定に従うしかなかった。しかし入所当日、大好きな父との別れにパニックを起こす息子を目の当たりにしたアハロンは、自分が息子を守ることを決意。「一緒に逃げよう」。その言葉から、2人の逃避行がはじまった。
自閉症が題材となる意味で、「レインマン」「I am Sam アイ・アム・サム」などとの類似点がある。しかしそれらの作品に比べ、本作はより父親目線で描かており、核には“子離れ”というテーマが宿っている。逃避行の果てに、父はふとこう思う。これまで「息子には時間が必要」と説明してきたが、別れの準備ができていなかったのは、自分のほうだったのかもしれない。
2人が下す決断とは――? これまでにない爽やかな感動が、あなたの胸を吹き抜けていく。
【レビュー】父親目線と、母親目線の鑑賞後
映画.com編集部員が実際に見てみたら…
○編集者(母親)の場合…最後はホロリと泣かされる、じんわりと心が温かくなる映画
あらすじを読んだときはヘビーな話かと思って身構えてしまいましたが、本編を見ると重さはまったくなく、幸せな気持ちのまま、あっという間に見終わってしまいました。最後はホロリと泣かされる、じんわりと心が温かくなる映画です。
ウリは自閉症スペクトラムを抱えていて、確かに“特別”な子かもしれない。けれど、ウリと父アハロンと母タマラが直面する問題は、決して“特殊”なことじゃない。
見ていて私は、息子が保育園に通い始めたころのことを思い出しました。保育園に連れていったら息子が私と離れるのをイヤがって泣き叫んだこと。その姿に胸が張り裂けるような思いをして自分も泣いたこと――。子育てをするときに多くの人が経験する、日常の試練と成長が描かれているので、子育て経験者だったら誰しも「わかる、わかる!」と、共感しっぱなしだと思います。
子育てのゴールは、自分(保護者)がいなくても、本人の力で生きていけるようになること。子どもは親の知らないところで成長していくものだということを、改めて考えさせられました。私も今後、子育てに悩んだときには、またこの映画を見直したいです。
最後に、ウリとアハロン親子が、ニコニコ&ノリノリで楽しくヒゲ剃りするシーンが印象深いです。最高にハッピーで羨ましい! 経験してみたかったな~!
○編集者(父親)の場合…じんわりと心に染み入り、やがて宝物のような感情を与えてくれる
息子のウリは、父アハロンがヘルメットの顎ヒモをしめてやらないといけないし、目を離すとコンセントをかじっちゃうし、不安でたまらないときは力いっぱい叫び出す。自動ドアもおびえて入れない。カタツムリが怖い、と言って動けなくなる。
赤ん坊ではない。しかし独り立ちできる大人でもない。優しい彼には、この世界は複雑すぎるのだ。
施設に入ることを提案され、ウリは「新しい家は嫌だ」という。アハロンは「パパとティボンに住む」、そうウリに言わせてみて、自分がなんだか浅ましく思えて、胸がチクリと疼くのを感じる。2人だけの完璧に充足した世界は、いつの間にか自分の全てになっていた。
「パパと一緒にいたい」。息子は埃まみれのポータブルDVDプレイヤーでチャップリンの「キッド」を見ていた。頬をそっとなでたら、記憶が溢れ出した。この子と離れることなんかできない。だから「一緒に逃げよう」と息子の手を取ることは、アハロンにとってごく自然な選択だったのだと思う。
鑑賞する最中、父アハロンの心情と自分の心が重なって仕方なかった。ウリがアハロンに、邪気も企みもない満面の笑顔を向けた瞬間、愛おしさが胸の奥底からとてつもない勢いでこみ上げてきた。
父アハロンは、旅のなかで自らの役割みたいなものに思いをめぐらせる。ウリに執着する理由は、愛ではなく、人生の転換点に置いてきた仕事や夢の重さゆえではないか?
アハロンの葛藤はなにも、自閉症児の子育てにおける特殊な出来事ではない。子離れにまつわる悩みであり、それはすべての親に等しく訪れる試練なのだ。彼らが旅の終着地点で見出した“幸福の形”に、子育てをこれからする人も、もう子育ては終わった人も関係なく、多くの父・母が涙を流すだろう。
この物語は派手ではない。けれど、じんわりと心に染み入り、やがて宝物のような感情を与えてくれる。ラストシーンがあまりにも完璧。自動ドアを通るたび、僕はこの映画を思い出すだろう。
【絶賛相次ぐ】著名人も共感の嵐
「親子の愛情は、別れの言葉すらも希望にするのだ」
○“世界三大映画祭”のひとつに出品、“優しさ”に称賛集まる
本作は第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌレーベル」に出品され、多くの称賛を浴びた。メガホンをとったのは、東京国際映画祭で史上初、唯一となるグランプリを2度受賞しているニル・ベルグマン監督。このイスラエルの名匠は、これまで家族の絆を繊細に描き続け、同国内の有名な評論家からは是枝裕和監督作品と並べられ、世界的な評価を得てきた。
そして本作には“実体験”が深く絡んでいる。物語は、脚本を手がけたダナ・イディシスの自閉症の弟と、彼女の父親をモデルに描かれている。イディシスの弟は、チャップリン演じる主人公が孤児の男の子を育て、親子の特別な絆を育む「キッド」を繰り返し見ているという。このエピソードに着想を得たベルグマン監督が、本作の中核に「キッド」を取り入れ、感動的なシーンの数々を編み上げた。
また父アハロン役のシャイ・アビビの名演もすごいが、驚がくさせられるのは息子ウリ役のノアム・インベルによる熱演。彼の実父は、自閉症のヤングアダルトを支援する施設のマネージャーであり、そこでのインベルの経験が本作にいかされている。彼の演技は目を見張るものがある。
キャスト・スタッフの実体験が物語に“命”を吹き込んだ、稀有な一作と言えるだろう。
○日本でも絶賛続々 総勢20人の著名人が感動の声最後に、本作に強く感動した著名人のコメントを紹介し、特集を締めくくろう。
関根勤(タレント)「父親の深い愛情に感動した! 観終わった後、暫く椅子から立ち上がれなかった!」
滝藤賢一(俳優)「『クレイマー、クレイマー』『マリッジ・ストーリー』を彷彿とさせる映画『旅立つ息子へ』。誰しも訪れる人生の岐路。その選択が正しいかどうかなんてことは、誰にも分からないし誰にも決められない。1人の少年を通して愛すべき人間の姿が浮き彫りになり、自分が生きる意味を考えてしまった」
谷川俊太郎(詩人)「映画を観たというより、父親のアハロンとともに、私はこの父と子の現実を生きました。きつかったけれど豊かな時間でした」
岸田奈美(作家)「わたしの家族にもやってくる、遠いようで近い、不安にまみれた未来。そういう霧が少し晴れました。障害のある家族と生きる人なら誰もが抱くであろう愛と葛藤、その先に必ずある成長に、強さをもらえた気がします」
南こうせつ(フォークシンガー)「親子であれ夫婦であれ、静かにそっと心に寄り添う。それが一番幸福な生き方かもしれない。癒されました」
北斗晶(タレント)「18歳で巣立つ我が子を送り出す時、不安や寂しさとの戦いを思い出しました。この寂しさとの戦いは親にとっては辛いものですが…親が子離れしてこそ、子供は自分の世界を創っていけるんだと映画を通して改めて感じました」
ヤマザキマリ(漫画家・文筆家)「無条件にお互いの存在を愛し、敬い、守る。本来の親子の愛情は『さようなら』という別れの言葉ですら、こんなに暖かく希望に満ちたものにするのだ。見終わった後も、何度も何度もこの親子のことを思い出している」
NON STYLE 石田明(お笑い芸人)「子育てで疲れきってるママたち、思春期で頭を抱えているパパたちにも是非見て欲しい。これほどまでに『親子愛』を直球で描いた物語を僕は知りません。愛するが故の決断・依存・嫉妬・幸せになって欲しいという願い。胸がしめつけられました。リアルすぎる親子の成長物語に目頭から液体が旅立っていくこと間違いなし」
棚橋弘至(新日本プロレス所属プロレスラー)「『私がいないと』という父の言葉に責任感と現実を。僕自身、子を持つ親として、感じた深い愛。なぜ?どうして?に答えはないけど、ゆっくりと成長していくウリの姿に感動します。こころが救われる作品です」