「展開が所々でわかりにくいけど、逆に考えることで見えてくる奥行がある」旅立つ息子へ ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)
展開が所々でわかりにくいけど、逆に考えることで見えてくる奥行がある
障がい者を主役にした映画は少なくない。これまでいろんな作品をみてきた。パラリンピック関係でたびたび取り上げられる言葉「失ったものを数えるな、残されたものを最大限生かせ。障がい者のチャレンジはときにドラマチックで、その行動は障がいの有無を問わない哲学的示唆に富んでいる。しかし自閉スペクトラム(発達障害)というのは私は初めてだ。その特性から、本人のドラマにはなりえず必然周囲の人の物語になってしまうからか。ともかく、こういう設定でひとつの作品に仕立て上げた手腕はきっと凄いのだと思う。
愛情をもって接しないと彼を理解できないし、彼を彼なりの幸せと向き合わせられない。じっさい大部分においてそれは間違ってはいないけど、感情の痛みやつらさから遠ざけることが最優先でいいのか、と別の言い方で問われるとむずかしい。この映画は、そこを描いていた。
これまで見つけて築いてきた「彼なりの幸せ」が、もしかしたら自分の思い込みかもしれない、とは疑いもせず、最後まで貫いてきた父親が、最後の最後に、ふっと切り替える。大事に大事にしてきた浮かぶ風船を、なにかの念に打たれて自分から空へ放ってしまうように。どんでん返しに近い技で、エンディングにつなげるためなら納得か、の展開に、ちょっとついていけなかった。
あとから幾度となく反芻して、だんだん呑み込めてきた。伏線はあった。私が印象的だったんは、隣の席の男に水を取ってくれと頼まれて、普通にすっと渡すところ。それに父親が感動するシ-ン。ラストはこのシーンの拡張拡大版だったと言える。逃避行の最中で、自分の信じていた世界が壊れていったことも影響している。どう壊れたか、ちょっとわかりにくいが。影響しているな、ということだけはわかる。
息子の生活を護りすぎていた父親の凝り固まった考えが、結局はどうなのか。この父親が、またといないすばらしい父親であるのも確か。奥の深い問題で、それが作品の奥行きになっている。