劇場公開日 2021年4月9日

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「アンモナイトを発見したメアリーの苦闘と自活と性」アンモナイトの目覚め 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アンモナイトを発見したメアリーの苦闘と自活と性

2022年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

2020年(イギリス)監督:脚本:フランシス・リー。
“激しい雨音”にはじまり、寄せては返す“波音”で終わる。
雨音、波の音、音の狂ったチェンバロ、響きの悪いチェロ、馬車の軋む車輪の音、突然鳴り出す時計。
BGMと言うよりそれらの自然音やら生活音が強く主張していた。
それはまるでメアリー(ケイト・ウィンスレット)の意志の強さと共鳴するかのようだ。
女が誇り高く自活すること・・・それが難しかった19世紀初頭。

1840年。イギリス南西部の海沿いの町ライム・レジス。
人間嫌いの古生物学者メアリー・アニングは、若き日の名声も忘れ去られて、
観光客相手にありふれた化石を売ってひっそりと暮らしていた。
アンモナイト採掘家のメアリー・アニング。
意志の強さを演じさせたらケイト・ウィンスレットほど相応しい女優はいない。
メアリー・アニングとはわずか13歳で“アンモナイトの化石を大発見した女性“の名前。
それは大英博物館に展示され、その後もメアリーは現代の“恐竜ブーム”につながる化石を多く発掘したが、女性である故に歴史の中に埋もれ、かき消された女性なのだ。
この映画で《化石発掘》をライフワークとして、貧しく生きたメアリー・アネットに、
フランシス・リー監督がスポットライトを当てたことは、素晴らしい功績だ。
そんなメアリーの元へ、うつ病の若い妻シャーロットを地質学者の夫ロデリックが、静養を兼ねてメアリーの家に預けて去るのだった。
美しく可憐。役に立たない飾り物のようなシャーロット(シアーシャ・ローナン)
しかしメアリーとシャーロットは互いに惹かれていく。
燃え上がる2人の恋心。
砂糖菓子のようなシャーロットに対して農婦や漁師のように素朴なメアリー。
題名の「アンモナイトの目覚め」とはシャーロットの性の目覚めをさすのだろうか?
(原題はただの、アンモナイト、である。)

私は途中この映画はシアーシャ・ローナンの映画かと思った。
しかし最後まで見たとき、これは間違いなくケイト・ウィンスレットが主演の映画なのだと思った。
若く美しいシアーシャ・ローナンの魅力を持ってしても尚、ケイト・ウィンスレットの存在感が数段と上回って見えるのは、美しさの盛りを過ぎた女優にも、若さと美しさに対抗する術があると知らしめた。

ところで、“アンモナイト”とはなんぞや?
答えは、絶滅した化石軟体動物の一つ。
頭足類に属するオウム貝の近縁。
日本では菊石、南瓜石などと呼ばれてきた。

シャーロットとメアリーの恋。
それは多分、架空のストーリーで、映画を賑やかにする小道具のひとつなのだろう。

エンドロールでいつまでも鳴らされる“波音“
その鳴り続ける激しさがメアリーの生き様のようだった。

琥珀糖