「批評が興味深い映画」劇場版 アーヤと魔女 sweet back mantraさんの映画レビュー(感想・評価)
批評が興味深い映画
原作未読、ジブリに特別な思い入れなし、NHK版を観て面白かったので劇場へ。
NHK版との差異を楽しみにした訳でもありません。
ストーリーはシンプルで演出、声優、映像も不快感がなく落ち着いて楽しめました。
テーマとして「操る」という行為を扱っており、珍しいテーマだと思いました。
「操る」と聞くと悪印象を私は抱いてしまいますが、アーヤを観ているとそう悪くない行為に思えました。
自分と相手がWIN-WINになるための交渉、皆を幸せにするための落としどころに導く術、操られることで新たな視点の獲得。
アーヤは理不尽な環境からの脱却が出来て、マンドレイクは小説が評価され、エンディングでは一つの家族となりベラも悪い気はしていないと思います。
親分肌や兄貴肌の人ってこういうのがうまい人なのかな。
ただ親分肌や兄貴肌に憧れだけでなりきれていない人にはあまり近づきたくはないですね。
前者は利他的要素が多く、後者は利己的要素が多い、その違いでしょうか。
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映画としての感想は以上ですが、
この映画の批評が趣深いので個人的に感じたことを書きます。
低評価を付ける方の批評を拝見していると、同じような指摘をしています。
ある一定数あるということは現在のムードなのでしょう。
・監督自体への批判。
本人が望んでいようがいまいが宮崎駿の息子ということで映画を作成できた側面があり、
そういう人には批判をうける義務があるという考えのもと、人格否定に近い批判。
嫉妬なのか、コンプレックスなのか、ネガティブな感情が…。
相手を貶めでもしないとご自身が心地よく日常を過ごすことが出来ないなんてしんどい世界です。
・ジブリ作品として最低。
ジブリに思い入れがある人は許せない作品なのでしょうね。
改めてジブリのブランド力が理解できました。
・キャラクターが美少女ではない。
アニメや漫画はもちろんの事、企業のマスコットなど日常に美少女があふれているので、
美少女食傷気味の私にとってはキャラクターデザインは良かったです。
美少女ジャンル映画ではないと思いますし…。
・アーヤの性格が悪いくて不快。
主人公にこういうキャラクターが配置されるのが新鮮ということなのかもしれません。
性格が悪いか否かは受け手次第ですが、アーヤは誰も不幸にしていないように描かれています。
・起承転結、ストーリーが無い。
起【マンドレイクと会うまで】、承【呪文作り】転【ベラへの仕返し~マンドレイクの心をつかむ】結【互いに打ち解けあう】
なのかと思います。尺が短いので序破急で解釈したほうが良いかもしれませんが。
盛り上がりがないという批評もみられますが、ハリウッド的メソッドで作られた映画も確かに面白いですが、
じんわりと変化していく映画もあってもよいかと思います。
ハンバーガーもおいしいけど、京料理もおいしい、それぞれの良さがあって、片方を正義として他を敵視しなくてもいいのではないでしょうか。
・考察、つじつまが合わないと面白くない。
インターネットが普及のおかげで考察をする楽しみ方があると思いますが、
この映画は考察を楽しむような映画ではないかと思います。
きっちりしっかり話の筋が通ってないと不快なのかもしれませんが、
古典などはファジーなものが多いですし、なにより児童文学が原作なので、
つじつま云々をつっこむのは野暮でしょう。ファンタジーですし。
・続編が必要。
私は良い余韻だと感じましたが、やはり12人の魔女や母親との関係をはっきりさせたいのでしょうか。
続編があればそれはそれで観たいですが、私はこの終わり方でも今後の想像を楽しめるので満足です。
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この映画のネガティブな批評の中には冷静さが少し足りない批評を見受けられました。
低評価やネガティブな発言をするのは悪いことではないのですが、憎しみに似た何かがすごいです。
「自分の好きなジャンルの映画要素が無い=価値のない排除すべき映画」的な。
その反動で「いや、思ったより悪くないぞ」「私は楽しめた」という批評も多くみられました。
ジブリ映画の宿命なのか、コロナの鬱憤なのか、インターネット普及による趣味嗜好の先鋭化か、社会のせいなのかよくわかりませんが、批評がとても興味深い映画です。