「独特のテイストのホームコメディ。 主人公の男の子ティミーは「自称名...」名探偵ティミー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
独特のテイストのホームコメディ。 主人公の男の子ティミーは「自称名...
独特のテイストのホームコメディ。
主人公の男の子ティミーは「自称名探偵」で、友達もいない変わり者。
母親との二人暮らしで、あいまいな依頼を受けては常に暗礁に乗り上げている。
しかしそれには必ず理由があって、多くの場合は無理解な大人の振る舞いによって妨害される。
ティミーにしか見えないものが見えるビジュアルはとてもユニークで魅力的だ。
なんでもないオレゴンの街並みが、この映画でしか味わえない独創的な光景に変わってしまう。その一番の理由はホッキョクグマ。
彼の名前はトータル。
ティミーの忠実な相棒で、不満もこぼさずに探偵捜査について回る。
これが、ちょっと大きな犬とか、猫、あるいは仔馬とかだったら、全く違うテイストの映画になっていただろう。
どうやら原作が存在し、それに忠実に映像化されたらしい。
狭い子供部屋に、窮屈そうに収まるホッキョクグマの様子は滑稽で不思議な安心感をもたらす。温暖化で居場所がなくなったクマの困窮ぶりを匂わせている。
あまつさえ、ティミーには、見えているけど見えない存在さえもいる。
彼にとって、同じグループに所属するアジア系の少女は顔から上が黒く塗りつぶされている。都合の悪い存在はそうやって消してしまうのだ。途中ではっきりした素性が知れたところでその黒塗りが消える。
そして独特のセリフ回し。
「まちがいが起きた」「了解」何度も繰り返されるティミーのつぶやきと、ボイスレコーダーに吹き込まれる操作レポートはとぼけた味わいを出し、クスっと笑ってしまう。
たいていは大人たちに災難をもたらし、手に負えない問題を起こす子供として、母親や教師、警官たちを困らせる。しかし本人は大まじめに捜査を遂行しているだけであって、そのためなら手段など考えていられないのだ。
例えば、フェンシングのマスクをつけたまま銀行を訪れ、セキュリティと押し問答になるが頑としてマスクを取ろうとしない。彼が子供じゃなければ通報されて終わりだ。社会科見学で訪れた水力発電のダムでは、勝手にグループからいなくなり、相棒のトータルを探し回る。失踪したティミーを探して、足もすくむような通路まで追ってきたクロッカス先生を絶体絶命の窮地から救おうと、身を挺してかばう。
お手本の存在が何なのかは分からないままだが、例えばシャーロック・ホームズのような理想像とするヒーローがいて、それに近づこうと努力している日々なのだ。
物語の中で起きた事件と言えば、宝物のセグウェイが何者かに持ち去られてしまったこと、母親が駐車違反を取り締まる警官と恋仲になること、ロシアのスパイに盗聴されていること、など虚々実々のアクシデントで、ティミーの妄想で語られるものと、現実が絶妙に絡み合っている。
グループの優等生が1ドルで売っているクッキーをタダで恵んでもらい、食べようとしたら盗聴器が仕込まれていたり、探偵事務所を閉じることになって、相棒のホッキョクグマを解雇せざるを得なくなり、オレゴン動物園のエントランスで別れのハグを交わすシーンは、とてもエモーショナルで心が揺さぶられる。
これらがただの妄想だとしたら、物語が根底から揺らぐ。
むしろ、低学年の子供たちに、この映画がどんなふうに見えるのかとても気になる。掛け値なし、映画の中で起きたことが全部実際にあったことと受け止めるのか、ホッキョクグマなんていないんでしょ?と、冷めた視点でシニカルに笑うのか。
ちょっと掘り出し物を見つけた気分になった。
ちなみに、母親役の女優さんは、どこかで見たことのある顔だと思ったら、『エレメンタリー』で、キティ役を演じたラヴィボンドだった。良い存在感を出している。なによりも、主役の男の子の、抑制されたハードボイルド小説のような語りが、この映画の骨格を支えている。『ヤング・シェルドン』よりも先に着想されたのか、何らかの影響を受けたのか。無関係とは思えないのだが、どうだろう。
2021.2.4